2023-11-01

大和ハウス工業・芳井敬一の「『何が世の中の役に立つか』の創業精神で」

芳井敬一・大和ハウス工業社長




創業者・石橋信夫の経営理念を受け継いで

 大和ハウス工業は、創業者・石橋信夫(1921―2003)が敗戦から10年経った1955年(昭和30年)に興した会社。

 戦争中、石橋は応召し、自らも戦地に赴き、シベリア抑留も体験。帰還後、目にしたのは戦禍で荒れ果てた母国の姿であった。

 石橋は、戦後焼け野が原になった日本に丈夫な住宅をつくろうと、1955年(昭和30年)に大和ハウス工業を設立。そして、鋼管構造の住宅技術の開発に取り組む。1959年(昭和34年)、わが国で初めてプレハブ住宅(工業化住宅)を提供。

〝プレファブリケーション〟(prefabrication)─。事前に、建築資材を工場生産することで、建築資材のコストダウンを図り、マイホームを持ちたいという国民のニーズに応えようと、創業者・石橋信夫は〝プレハブ住宅〟を開発。鋼管(鉄パイプ)を住宅資材に採用し、住宅建設に革命をもたらした。

 現社長・芳井敬一氏が、社会が困っている課題に対して、「やってみようというDNA(遺伝子)があり、それを大事にしていきたい」と語るのも、そういった歴史的出発点を踏まえてのことである。

 芳井氏は、創業の原点を振り返りながら、「自分たちが造った団地に住む人たちが今、困っておられる」と次のように語る。

「特に、自分たちが関わって街をつくってきていますから、その街が泣いていることに関して、解決策づくりに向かってやるべきだと考えています」

 その解決策づくりへ向かって、社内での提案はどうか?

 昨年、団地再生について、どうすればいいかと社内で募集したところ、約170件の提案が寄せられたという。

「若い社員からの提案が多いですね。年齢が高い人たちも提案してくれています」と芳井氏も手応えを感じている様子。

 団地再生の方向性については、「再生エネルギーの街にするとか、スポーツコミュニティの街にするとか、いろいろな考え方が寄せられていますが、実証します」と芳井氏は語る。


大和ハウスが持つ物流事業での強みとは

 2023年3月期の同社の売上高構成は、戸建て(全体の18%)、賃貸(同23%)、マンション(同10%)と住宅関連が約半分を占める。一方、最近、売上が急増しているのが、商業施設と物流施設の2部門。商業、物流の売上構成比は共に22%で、現在の同社の業績を支えている。

「そうですね、相変わらず、物流という軸はこれからも伸びると。いつまで伸びるかは計り知れないくらい、物流はやっていく。特に2024年問題が出てくると、その時に国土交通省さんはじめ、どのように対応していくか。厚生労働省の働き方政策も関係していきますしね。それを見ながら、僕たちが世の中に提供できるものを考えていきます」と芳井氏は語る。

 2024年問題─。建設や物流・運輸業界の人手不足、ドライバー不足は実に深刻。こうした社会課題に対応するため、物流施設を手がける業界内の開発競争も熾烈になっている。

 インターネット通販(eコマース)の普及や産業界のSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)化の進行で、物流業務そのものが高機能化・高能率化を迫られている。

 外資系のプロロジス、日本GLPに加え、野村不動産、三菱地所など、国内不動産系も加わって、物流施設の開発競争も激しさを増す。

 今、〝物流不動産・御三家〟とされるのがプロロジス、日本GLP、大和ハウス工業の3社。その中で、大和ハウス工業の強みとは何か?

 それは創業以来、建設機能を持つ同社が、その歴史的資産に物流・デベロッパー機能を付加しているということ。「われわれは単なるデベロッパー業ではない」と芳井氏が建設業プラスデベロッパー業の両面性を強調するのも、そうした歴史的背景があるからだ。

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