2023-09-25

【政界】支持率再浮上に向けた環境整備か?処理水や万博でスイッチを入れた岸田首相

イラスト・山田紳



続く野党の混迷

 様々な局面で決意を前面に出す岸田だが、そうはいってもマイナンバーカードのひも付けを巡る問題もあり、抜本的な支持回復の妙案は見当たらない。ところが、次期衆院選で戦う相手の野党は、維新を除き、岸田政権以上にほころびが目立つ状態が続く。

 春の統一地方選で躍進した維新の勢いは持続している。各社の世論調査では、維新の政党支持率が現在野党第1党の立憲民主党を上回ることが常態化している。

 維新は衆院選の準備を着々と進めており、これまで回避していた公明党の現職がいる大阪・兵庫の計6選挙区でも対抗馬の擁立を決めた。維新幹事長の藤田文武は8月9日の記者会見で「(秋の)臨時国会が始まる前に立憲民主党の数を超えたい。160人強まではいきたい」と述べた。9月はじめの時点で約135人の擁立を決めており、藤田の予告は実現しそうな勢いだ。

 一方の立民は、代表の泉健太が150人の当選を目指すと公約している。立民の現職は96人。これ以外の新人や元職の次期衆院選候補は60人程度が決まっており、合計約160人の候補をそろえた。現時点で候補者の数では維新を上回っているが、党勢の低迷もあって今後さらに飛躍的に数を増やせるかどうかは甚だ疑わしい。

 そもそも現有勢力の1.5倍という泉の目標を実現できる好材料は見当たらない。メリットとデメリットが交錯する共産党との選挙協力はあいまいなままで、衆院選後の泉退陣は既定路線にさえなりつつある。野党第1党が入れ替わる可能性は極めて大きいが、さすがに自公で過半数を割ることはないだろう。

 岸田は連立与党を組む公明党との関係修復でも自身がリードしている。東京の衆院選小選挙区を巡る自公の協力関係は5月、「信頼関係は地に落ちた」(公明党幹事長の石井啓一)として、いったん解消した。

 自民党幹事長の茂木敏充はその後も関係修復に動かず、公明党からの支援を求める自民党内の声に押される形で岸田は公明党代表の山口那津男に関係修復を打診。8月31日に次々回の衆院選で公明党が東京での現有1議席に加え、2議席目を獲得できるよう自民党が努力することを確認し、9月4日に再び党首会談で正式合意した。

 この交渉を終えた岸田は周囲に「本来、幹事長(茂木)の仕事じゃないか」と不満を吐露した。茂木もそうだが、岸田も公明党と特別親しい関係にあるわけではない。それでも総合的判断で自らが与党間の関係修復に乗り出さなければいけない状況になっていた。


ポスト岸田の不在

 茂木のふるまいに象徴されるように、自民党内を見渡しても、相変わらず「ポスト岸田」の有力候補は見当たらない。各社の世論調査では元幹事長の石破茂、デジタル担当相の河野太郎、元環境相の小泉進次郎らの名前が上位に連なるが、いずれも自民党議員からの支持は広がっていない。

 茂木は、副総裁の麻生太郎と良好な関係を築き、岸田を支える立場にはある。ただ、国民の認知度が低く、自身が会長として率いる茂木派内でさえ、参院を中心に敵が多い。

 保守派に根強い人気がある経済安全保障担当相の高市早苗は総裁選に必要な20人の推薦人確保さえ危うい。女性初の首相として森らが期待を寄せる元経済産業相の小渕優子は、宰相の座をつかむには時期尚早だ。

 安泰に見える岸田だが、デジタル社会の実現に欠かせないマイナカードの普及と一体化した健康保険証の廃止は、国民になかなか理解してもらえない。

 岸田が「国民が責任を背負うべきだ」と強い信念のもとに進める防衛力強化のための増税は、2024年度実施は先送りの方針だが、岸田は今年中の増税時期決定の選択肢を残している。

「次元の異なる少子化対策」では、24年度からの3年間で追加予算3.5兆円を要するが、財源確保の具体策は「年末までに結論」としている。

 足元の物価対策を含め、こうした課題に明快な答えを出すことができるかどうかが岸田再浮上のカギとなるだろう。

(敬称略)

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