2023-08-18

【政界】首相は実力重視の布陣を作れるか? 岸田政権の行方を占う内閣改造

イラスト・山田紳

間もなく3年目に入る岸田政権が正念場を迎えている。マイナンバーカードの普及を急いだせいでトラブルが相次いだのは誤算だったが、内閣支持率が再び下落しているのは、それだけが原因ではない。新しい資本主義、防衛力強化、次元の異なる少子化対策などの看板政策を巡って、首相・岸田文雄の指導力が疑問視され始めたのだ。政権浮揚のカギを握るのは秋の臨時国会召集前の内閣改造・自民党役員人事。従来の派閥均衡ではなく、政策の実行力を重視した布陣を整えることができるかが問われる。

【財務省】22年度税収が過去最高に 24年の「防衛増税」は見送り

「日程的にきつい」

 昨年末に2023年度税制改正大綱を決めた時点で、こうなることは織り込み済みだったに違いない。

 政府は23~27年度で防衛費の総額を43兆円程度に増やす方針を定め、財源の一部を法人税、所得税、たばこ税の増税で賄うことにしている。ただ、自民党内の不満に配慮し、大綱は増税時期を「24年以降の適切な時期」とあいまいにした。

 伏線はまだある。政府が6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」は「25年以降も可能となるよう、柔軟に対応する」と増税のさらなる先送りを示唆した。基本方針でここまで書けば、24年度からの増税は消えたも同然だった。

 7月13日に自民党本部で開かれた党税制調査会の非公式幹部会合(いわゆるインナー)は、そうした首相官邸の意向を追認する場になった。

「(来年)4月1日から実施するのは、スケジュール的には大変きつい状況になっている」

 会合後、会長の宮沢洋一は24年度の法人税増税はないことをあっさり認めた。

 宮沢の説明のポイントは、①来年4月1日に法人税を上げるには、この夏に党税調で結論を出し、秋の臨時国会で関連法案を成立させる必要がある②法人税の増税は4月1日からの会計年度で適用するのが一般的─という2点。①は時間切れ。②は、年末の税制改正論議を経て来年3月までに関連法案を成立させたとしても、法人税を4月から上げるのは難しく、年度途中の増税も適切ではないという意味だ。

 しかも、政府は所得税とたばこ税を法人税より先に増税することを想定していない。それぞれの税の特徴から、増税は最速でも所得税が25年1月1日、法人税が4月1日、たばこ税が10月1日からになる。

 しかし、それもあくまで机上の計算だ。

 国民の負担感を緩和するため、政府は3税を段階的に増税し、27年度から毎年1兆円強を確保することにしている。25年夏には参院選があるため、同年度からの増税には与党が納得しないだろう。諸般の事情を踏まえると、26年度と27年度の2段階で実施するプランが現実味を帯びてくる。


師匠は増税解散

 財務省が7月に発表した22年度一般会計決算によると、税収は前年度比6.1%増の71兆1374億円で、初めて70兆円台になった。税収増などに伴う決算剰余金は2.6兆円で、このうち1.3兆円を防衛力強化に充てる方針だ。

 税収は3年連続で過去最高を更新しており、24年度の増税見送りに大きく寄与した。自民党政調会長の萩生田光一らは早期に増税しないよう政府側をけん制してきただけに、岸田にとってはまさに渡りに船だった。

 当面の増税がなくなったことで、岸田が秋の臨時国会で衆院解散に踏み切る可能性は高まったという観測が永田町に広がる。立憲民主党代表の泉健太は7月の講演で「10月22日か29日投開票」との見方を示した。

 本当にそうだろうか。増額した防衛費を28年度以降も維持するには、税収の上振れにいつまでも頼るわけにはいかず、いずれは恒久財源としての増税が必要になる。岸田は昨年末、増税時期について23年中に決定すると表明しており、増税方針の白紙撤回はあり得ない。選挙になれば、野党は「増税隠し」と争点化を図るだろう。

 岸田が師と仰ぐ元首相・大平正芳は一般消費税の導入を掲げて1979年の衆院選に臨んだ。結果的に自民党は過半数割れしたが、有権者に正面から信を問うたことは後世、評価されている。岸田もまず増税時期を国民に示すことが、政治リーダーとしてあるべき姿ではないか。

 先の通常国会会期末に解散風が吹いたのは、自民党内で「解散が早いほど有利になる」という期待値が上がったからだ。しかし、同党のベテラン秘書は「負け幅は別として、解散していたら自民党は議席を減らしただろう」と冷静に振り返る。現場の肌感覚として、自民党にさほど風は吹いていなかったという。

 共同通信が7月14~16日に実施した全国世論調査で内閣支持率は6月の40.8%から34.3%に低下し、不支持率は41.6%から48.6%に上昇した。他社の調査も傾向は変わらない。5月に広島で開催した主要7カ国首脳会議(G7サミット)の効果はすっかりはげ落ち、岸田の判断はさらに難しくなったと言える。

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