2023-07-10

地政学リスクのある中、フェローテックHDが打ち出す「地産地消」戦略

賀賢漢・フェローテックホールディングス社長グループCEO



米中摩擦はむしろ追い風

 1957年に中国・上海で生まれた賀氏は、もともと上海で教師をしていた人物。その後、日本の早稲田大学や日本大学大学院へ留学。93年に同社へ就職し、20年から社長に就任した。

 その間、同社は96年に店頭登録(現在は東証スタンダード)、99年には元親会社の米社を傘下に収めた。現在は売上の約8割が米国を中心とした海外、製造も約8割が中国を中心とする海外で行っている。

 それだけに、同社につきまとうのが中国リスクだ。

 特に近年は米中対立が激化し、経済安全保障上のリスクがあるとされる半導体の先端技術を巡っては、米国が対中輸出規制を強化。アプライドマテリアルズやラムリサーチなどの米国企業が主要顧客で、中国を中心とした生産体制を構築してきた同社にとっては、逆風が押し寄せているのではないか。

 それでも賀氏は、中国政府が経済政策『中国製造2025』で半導体の国産化強化を打ち出していることから、逆風ではないと断言。今後も中国での生産能力増強に取り組む考えだ。

「米中摩擦はむしろ追い風。半導体製造装置の分野では、中国はまだまだ日本と比べて競争力が追い付いていない。しかし、マーケットはすでに中国が世界一。特に昨今の米中摩擦もあって、さらに国産化に向けた投資が加速している。米国企業からの調達を他社に置き換える動きが加速する中で、30年前から中国で主要拠点を構築してきた当社への引き合いが増加しており、中国に根付いている当社にとってはチャンス」(賀氏)

 もっとも、同社も近年はリスクヘッジの観点から、マレーシアに新たな生産拠点を建設中の他、国内回帰を掲げて日本でも新工場を建設。昨秋から石川県白山市の第2工場を稼働させた他、来年中には新たに同・川北町に第3工場を竣工予定。更に、TSMC(台湾積体電路製造)が建設中の熊本工場から車で10分程度の場所(大津町)に新工場を建設する方針。中国で培ってきた量産技術を日本に逆輸入しようとしている。

 また、23年には東証グロース上場で温度センサを主力とする大泉製作所と機械刃物メーカーの東洋刃物を子会社化。コア事業の更なる強化に向け、M&A(合併・買収)も駆使して周辺事業を強化。2030年度に売上高5千億円、当期純利益500億円を目指す予定だ。

「日本には優れた技術を持った半導体製造装置や部材のメーカーが多い。各国がサプライチェーン(供給網)の見直しを図る中で、どの国にとっても顧客に望まれているのは地産地消。当社は米国発の日本企業であり、中国で製造技術を磨いてきた強みがあるので、中国のお客さんには中国、日本のお客さんには日本、米国のお客さんには米国や日本、マレーシアから製品を提供していく」と語る賀氏。

 各国とも半導体サプライチェーンの再構築が求められる中で、同社も今後の生産・販売体制をどう構築していくか。賀氏の挑戦が続く。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事