2023-06-21

【政界】岸田首相による首脳会談への表明に即応してきた北朝鮮の真意

イラスト・山田紳



交錯する思惑

 日朝協議に応じる気配さえなかった北朝鮮が今回なぜ、前向きな姿勢に転換したのか。

 北朝鮮は米国との関係改善と体制保障を重視している。対米関係が悪化し、南北関係も膠着したときに日本を橋渡し役にするべく対話を持ちかけてくるのが過去のケースといえる。

 小泉が電撃的に訪朝し、拉致問題が大きく動いた02年当時は、米大統領のブッシュが01年の米中枢同時テロを受けてイラン、イラクと共に、大量破壊兵器の開発を続ける北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しして批判し、厳しい態度をとっていた。米国との関係悪化を避けるため、日本との対話路線を選んだとされる。

 また、14年の拉致被害者らの再調査を行ったときは、国際社会の厳しい対北制裁などを受け、経済的に厳しい状況にあった。制裁措置を緩めさせ、あわよくば日本から経済的な支援を引き出したいという思惑があったとされる。

 現在、米大統領のバイデンと対話する環境にない。韓国の尹錫悦政権は米国との連携を重視し、北朝鮮と対決姿勢を強めている。岸田の「ハイレベル協議」発言のあった5月下旬は米韓両国が大規模な合同演習が南北軍事境界線付近で行っていた。

 一方、北朝鮮は21年に打ち出した「国防力5カ年増強計画」に沿って核・ミサイル開発を進めており、今年5月29日には日本に対し、31日から6月11日までの間に人工衛星を打ち上げることを通告していた。

 岸田の「ハイレベル協議」発言に反応したのも米韓と日本の足並みを見出し、楔を打ち込もうとする狙いが透けてみえる。

 また、米国と中国・ロシアが対立する中で、国連安全保障理事会が機能不全に陥っていることもあって、衛星打ち上げを事前に伝えているのだから、非難したり、圧力を強めたりすることはしないように─。そんな日本に対する強気のメッセージだったのかもしれない。

 さらに、先の先進7カ国首脳会談(G7広島サミット)に合わせ、岸田と尹が韓国人被爆者の慰霊碑を参拝したことから、北朝鮮の被爆者への何らかの支援を引き出せると踏んだのかもしれない。

 一方、岸田にとって、通常国会の会期末(6月21日)を控えて、衆院解散・総選挙に踏み切るのかどうかに関心が集まる中で、3月のウクライナ電撃訪問や5月のG7広島サミットの成功に続き、さらに外交での実績を積み上げようとしたとの見方もある。国民世論の批判を浴びる首相秘書官だった長男・翔太郎の「首相公邸忘年会」騒動を掻き消すことも狙った可能性もある。

 もっとも、家族会代表の横田拓也が全国大集会で訴えた「拉致された私たちの愛する子供や兄弟を待つ親世代の高齢化は厳しい現実にあり、再会を果たせず他界されたケースが相次いでいる。残されている時間がない」という言葉を受け止め、事態打開に向けた強い決意の表われであることは間違いない。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事