2023-06-14

井野貴章・PwCあらた有限責任監査法人 代表執行役「会計士は資本市場を守るエッセンシャルワーカー」

井野貴章・PwCあらた有限責任監査法人 代表執行役



デジタル監査への道のり

 ─ デジタル監査は、まだまだ道半ばということですね。

 井野 これからですね。デジタル監査とは、人間がやっているいろいろな不都合を機械に置き換えることを意味しています。我々は2030年ぐらいに起きるであろう監査の自動化の姿をイメージとして持っています。

 それは会社から自動的にデータが届き、それを成形して自動的に分析し、その際に、このあたりがあやしいですというところまで、リアルタイムで人間が関わらずにできるというものです。結果的に人間は、あやしい部分を詰めにいくだけになります。

 ところが今は監査先の会社に行って「こういう作業をしたいので、こういう資料をください」とお願いをする。その資料を母集団として、そこからサンプル対象を抽出し、具体的な取引の証拠書類をいただきます。

 入手した証拠書類のデータをエクセルに入力し、並べ替えて比較して、異常点についてようやく個別の調査を始めることができる。ここまでを準備工程と呼ぶことができますが、この工程を人間が苦労しながら相当の時間をかけてやっているのです。

 ─ デジタル監査は、この準備工程を全てデジタルに置き換えるのが狙いだと。

 井野 そうです。さらに言えば、準備工程における自動化や標準化の補助作業は必ずしも会計士が得意ではありませんし、さらには人の手によらず、機械化できることもあるでしょう。そういう形になればなるほど、実はお客様である企業も、監査上のリクエストにいちいち個別の対応をせずに済みます。

 いま企業がDXを進めていますが、これは、もともとはビジネスを革新するためです。しかし、DXにより保持可能になる様々な企業取引の属性情報をバックオフィスが使うシステムや会計のデータに紐づけることができれば、個別の取引のデータが企業活動のストーリーを語れるようになる。

 これが事後的に改竄されない仕組みの中で運用されれば、それらのデータをリアルタイムに入手して、複数のデータ間の因果関係や相関関係をたどりながら、異常点をAIが抽出するということまで監査側で工夫できるようになるということです。

 あと、デジタル監査を効率的に行うには、企業側のシステムで保有するデータ品質の均質性も重要になります。例えば、同じ取引が同じように表現されないデータでは、ノイズがたくさんあるために、異常点のように思われるものがたくさん出てきてしまうのです。これをすべて確かめに行くとなるとコスト効率が大変悪くなりかねません。

 ─ これが自動化の本質と言えますね。

 井野 そうですね。AIを使って自動的に何かすごいことができるということもあるかもしれませんが、私たちは、これまでのところ「監査の自動化」を宣伝することには消極的でした。それは我々だけが準備できただけでは、本当の監査の自動化は進まないからです。あくまでも企業側のデジタル化と一緒になって進むということを前提にしているからです。(次回に続く)

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