東郷頭取から学んだこと
─ 菊地さんは日債銀時代、最後の頭取だった東郷重興さんの秘書を務めていましたね。東郷さんからは何を学びましたか。
菊地 経営者は逃げてはならないということです。私が東郷さんの秘書を務めていた1990年代後半の日本は金融危機の嵐が吹き荒れていた頃で、日債銀は特別公的管理に追い込まれていきました。この時代の空気はバブルの責任論真っ盛りで、金融機関に対してその責任追及を徹底しなければならないという空気が支配的でした。
そんなときに東郷さんが「読んでみたらいいよ」と言って私にくれたのが山本七平の著書『空気の研究』でした。そこにはまさしく日本人の気質が書かれていました。今回のコロナも含めて、空気というのは凄い支配力を持っていると感じます。それでも経営者は逃げてはならないと。それは東郷さん自身が自らの行動で示してくれました。
─ 東郷さんは一切弁明せず、事実に即して行動していましたね。さて、足元では原材料価格の高騰や人手不足が続き、値上げも避けられない情勢です。
菊地 ロイヤルグループの値上げという点で見れば、今のところスムーズにいっています。ただ、これだけあらゆるものの値段が上がっていますから、どうしても製品の値上げが先に始まり、所得は後になります。今は値上げをしても売り上げがついてくる状況が続いていますが、この状態が維持できるかどうかというと私は懐疑的です。
秋口くらいから若干弱まってくるのではないだろうかという問題意識を持っています。賃上げでは我々も平均6.5%の賃金改善を行いました。しかし、これが一過性だと意味がありません。持続的に上げることで初めて意味が出てきます。それを実現するためには、賃上げをしたことで生産性を上げ、更なる待遇改善につなげなければなりません。
その意味ではテクノロジーが鍵になります。AIなどデジタル技術を活用した第4次産業革命は、これまでの産業革命とは質が違うのではないでしょうか。第1次から第3次までは製造業がメリットを享受してきましたが、第4次ではサービス産業がメリットを享受できると思うのです。
そうすると、第1次から第3次は人を代替するものでしたが、第4次は人の能力を補完したり、拡張するようなものになると。人を入れ替えるのではなく、人の能力をよりエンハンス(向上)させ、拡張させ、強くさせるものだと。ですから今後、サービス産業はすごく面白くなるのではないかと思います。