2023-01-17

日銀が追い込まれ「実質利上げ」、求められる「市場との対話」

日本銀行本店



日本国債の「格下げ」リスクも



 ただ、本当の試練はこれからだ。今後、日銀と投機筋の攻防が本格的に再開する。

 日本国債に売り圧力が再び強まるのは必至で、日銀が新たな長期金利の上限を防衛し切れなくなり、追加「利上げ」に追い込まれれば、企業の資金繰りや財政に大きな影響を及ぼす恐れがある。

 日銀の買い支えによるサポートが弱まれば、国債の格付けが現在「シングルAプラス」(米格付け会社S&Pグローバル)から格下げされるリスクが指摘されている。

 財務省によると、仮に金利が1%上がれば、国債の元利払いに充てる国債費は3.7兆円も上振れするというだけに、財政運営は一気に厳しくなる。

 国債格下げによる金融機関や企業への影響も甚大。邦銀は10年以降、日本国債を担保に外銀からドルを借り入れる「クロスカレンシーレポ」と呼ばれる取引で巨額のドル資金を調達してきたが、格付けが「トリプルB」まで下がれば、レポ取引で担保として認められなくなる可能性があり、メガバンクなどはドルの資金繰りに窮する恐れがある。

 企業の格付けは国債の格付けを上回らない「ソブリンシーリング」の仕組みがあるため、トヨタ自動車を始め大手企業も格下げされ、社債やコマーシャルペーパーなどによる資金調達環境が悪化するのも必至。

 日銀が市場に流通する国債の過半を保有するというが、裏返せば残りの半分は金融機関や機関投資家が持っているということ。国債格下げによる債券価格の暴落で含み損が膨らめば、財務を直撃しかねない。

 また、23年からは新型コロナウイルス禍対応で実施された中小企業向け無利子無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が本格化するが、金利が大きく上がれば、借り換えが困難になり、経営に行き詰まる企業が続出して地銀を中心に不良債権問題が再燃する恐れもある。銀行の「要注意先」向け融資残高(グレー債権)も9年ぶりに60兆円を超えている。

 不動産への影響も懸念される。足元で影響を受けたのは住宅ローンの固定金利だが、23年以降、本格的に金利がつくと住宅保有者、購入者の金利負担が増す。首都圏のマンション価格は、例えば東京・亀戸で中古マンションが1億3000万円を超える価格で取引されるなど「バブル状態」が指摘される。

「今のマンション価格は異常水準。どこかで調整があるのではないか」(信託銀行関係者)との指摘もあり、今回の実質利上げが引き金になる可能性もある。

 岸田政権は年明けの経済財政諮問会議で中長期の経済財政運営の進め方を議論するというが、日銀の異次元緩和策の見直しが経済や市場の混乱を引き起こさないように財政規律に配慮した姿勢への転換が求められそうだ。

 一方、23年4月に総裁任期が迫る黒田氏がこのタイミングで政策修正に動いたことに絡んでは、後継人事への思惑も取り沙汰されている。異次元緩和策の見直しに着手することで政策の継続性への配慮を任命権者の岸田首相に求め、黒田緩和を支えてきた雨宮正佳副総裁を昇格させるシナリオだ。金融政策面に加え、人事面でも黒田氏の賭けが奏功するか、注目される。

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