2022-09-02

オリックス・宮内義彦氏の危機感「日本は『アルゼンチン化』の道を歩み始めている」

宮内義彦・オリックスシニア・チェアマン



政府は「富の分配」のあり方を見直すべき


 ─ 岸田政権は「新しい資本主義」をいう言葉を打ち出していますが、宮内さんはどう見ていますか。

 宮内 「新しい資本主義」は、まだ何なのかがよくわからないというのが正直なところです。新しい資本主義と言うまでもなく、資本主義はこれまでもずっと進化してきたと思います。

 資本主義は生産の部分について、競争と市場の選択というメカニズムが組み込まれています。競争して、優れたものが選ばれるという市場経済は、経済的価値をつくるシステムとしては、これに優るものはありません。

 今は、生産の部分の問題ではないのに、資本主義を変えなければいけないと言っていますが、一番問題なのは、その結果です。つくり上げた富の分配の問題であり、それが格差です。

 生産方式でなく分配方式がうまくいかなくなって、「社会がおかしくなった」という声が出て、生産方式が悪いのではないかという話になっている。私は、それは違うと思います。

 ─ 論点がずれた議論になっていると。

 宮内 ええ。富の分配の決定権を持つのは国です。ですから、私に言わせれば国がもっとしっかりして、国民が満足するような分配をする必要があると考えます。

 日本には、そこまで大金持ちはいませんが、例えばロシアの分配方式を見ると、所得税は全国民一律だったため、オリガルヒ(新興財閥)のような富裕層の誕生につながっていくわけです。

 日本の場合を振り返ると、戦争が終わって、しばらくして何が起きたかというと、最高税率90%の「財産税」で、お金持ちから資産を取り上げたことがありました。

 当時の国は、そうした政策を打ち、富の分配をしたわけです。国にはそういうことができるわけですが、それをやっていないというのが今の問題です。社会が不安にならないような形で富の分配をする必要があります。

 日本では今、貧困層がどんどん増えてきています。こうした人々に分配して救わないと社会はよくなりません。ですから、私は「ベーシックインカム」(最低限所得保障)に賛成です。社会福祉制度では必要な人のところに行き渡りません。

 ─ ベーシックインカムについては、所得保障があるから働かなくなる人が出るのではないかという議論もありますが。

 宮内 一部に、国からお金をもらって働かずに生きていく人がいてもいいのではないかと思います。ただ、これまでベーシックインカムの実験をした結果を見ると、博打に走ったりするわけではなく、学校に行けなかった子供を行かせることができるようになったといった、プラスの効果が報告されています。

 もう一つ、これは日本の問題ですが、日本では規制ばかりできちんとした市場経済が成り立っていません。効率が悪いわけです。ですから、資本主義を変えるというのであれば、既得権益を打破し、規制改革を行うのは一丁目一番地です。これを実行しなければ、日本の富は増えないと考えます。

 ─ 日本は生産、分配ともに見直す必要があるということですね。

 宮内 そうです。企業の問題もあります。例えば日本では法人実効税率は約30%ですが、それを受けて一部にタックスヘイブン(租税回避地)を活用しようという動きがあるわけですが、時々叩かれています。

 ただ、企業は税金を多く支払っていると、株主総会で株主の方々からお叱りを受けます。その意味では、税制については国際協調が必要だと思います。国際的に税制を考えて、抜け穴をつくらないようにする。そうしない限り、分配問題は解決しないと思います。

 ─ これは国際的な流れになってきていますか。

 宮内 OECD(経済協力開発機構)の加盟国など136の国と地域が、法人税の最低税率を15%に定めるといった国際ルールについて合意しており、少しは動いていますが、課題解決に向けては、まだまだこれからだと思います。(続く)

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事