2022-09-02

オリックス・宮内義彦氏の危機感「日本は『アルゼンチン化』の道を歩み始めている」

宮内義彦・オリックスシニア・チェアマン



経済理論が通用しない日本


 ─ これまでコロナ禍が続く中でロシアのウクライナ侵攻が起きました。経済的には欧米のインフレによって金融政策の変更があり、波乱含みです。宮内さんは現状をどう見ていますか。

 宮内 現状は非常に難しく、おそらく米国はインフレを抑えるのに懸命で、これは結局、景気を抑える方向に行かざるを得ないと考えます。

 しかし、米国経済の活力を考えると、長期間インフレを抑えてばかりもいられません。急激な利上げは景気を冷やす可能性があります。ただ、米国の経済運営は、本当に専門性が高いと思っており、FRB(米連邦準備制度理事会)はうまくコントロールするのではないかと見ています。

 ─ それに対して、日本銀行の金融政策をどう見ますか。

 宮内 日本はこの10年間、金融緩和を放置しています。金利を低くすれば、お金が安くなりますから資金需要が起き、金利を高くするとお金が高くなって資金需要は減っていくというのが金融理論です。

 しかし、この理論が日本では全く通用しないわけです。金利を下げても、タダにしても資金需要が全く起こらない。本来、資金需要が起こると民間金融機関が信用創造して経済が前に進みます。しかし、誰も借りに来ないわけですから、信用創造ができないと考えます。

 金融理論が通用しないことは、すぐにわかったはずなのに、同じことを10年続けているのは、経済政策の失敗だと思います。金利で経済は動かないことがはっきりしたわけですが、金融政策がダメであれば、次は財政しかありません。

 ─ 財政出動を行う必要があると?

 宮内 ええ。もっと財政政策を大きく打ち出すべきだと思います。ただ、日本は財政均衡至上主義で、国が潰れたとしても財政が均衡しなければいけないという主客転倒の政策を続けています。

 コロナ禍になって、やっと財政が出ましたが、コロナで落ちた分を何とかカバーしただけであって、根本的な財政出動は行われていないのです。

 その意味では金融政策の「一本足打法」で来たわけですが、この一歩足が折れているわけです。もちろん、日銀ばかりが悪いわけではありませんが、少なくともお金はタダだという経済はあり得ません。お金には値打ちがあるのだということで、例えば、個人が保有する現預金1000兆円に2%の金利が付けば、20兆円の富が生まれるわけです。それで経済を大きくする方がよほどいい。こういう議論になると、日銀が債務超過になるという話が出ますが、本質からずれています。金利を付けて円安を止めるということに尽きます。

 ─ 金利が動かない経済はあり得ず、本来の経済に戻ろうということですね。

 宮内 そうです。金利が上がると中小零細企業が困るという話もありますが、金利が払えないような「ゾンビ企業」を残すだけでは、日本経済はよくならないのではないでしょうか。

 本当に潰れてはいけない企業が潰れるのであれば、それは政策的に手当すればいいと思います。

 ─ 日本はある時からぬるま湯、現状維持で来てしまった面がありますね。それが「失われた30年」につながっている。

 宮内 「失われた30年」と言いますが、私は、日本は「アルゼンチン化」していると考えています。アルゼンチン経済は長年低迷が続いていますが、日本はついに、その道を歩み始めたのではないかと見ています。

 ─ かつて、アルゼンチンは世界有数の豊かな国でした。

 宮内 ええ。1945年に第2次世界大戦が終戦した時には、世界で最も豊かな国でした。戦争にも参加せず、欧州に食料を供給する余裕があったわけですが、結局それを天井に今日まで下がり続けています。ポピュリズム政治による放漫財政、経済政策の混乱などが起きて財政が破綻しました。

 日本も長期低落に入ったと見ていますが、それを抜け出す契機、兆候が見えてこないのが非常に情けないと感じます。

 ─ 1人当たりGPP(国内総生産)でシンガポール、香港に抜かれ、韓国にも抜かれそうな状況です。

 宮内 購買力平価で見ると韓国に抜かれ、しかも相当差を付けられています。

 ─ それでも日本は全体的に危機感が薄いですね。

 宮内 ぬるま湯状況を一つひとつ打破し、社会にもう一度活力を取り戻すにはどうしたらいいかを考えなければなりません。

 社会構造というハードの部分を変えなければいけないのと同時に、それをよしとしている国民の意識というソフトを変える必要があります。ハードとソフトの両方を変えるというのは、非常に大変です。

 ─ 宮内さんはこれまで、規制改革に打ち込む中で、それを実感してきたと。

 宮内 そうですね。規制改革は、そのうちの極々一部ですが、それでも自分が一生懸命関与してきたものも、今は止まっているようにみえます。そういうものはいっぱいあるわけです。

 ─ これは産官学で取り組むべき課題ですね。

 宮内 ぬるま湯状況をつくったのは誰かではなく、みんながまず「これではダメだ」と思うこと。そして物事を変えることを躊躇しないことです。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事