2022-07-20

【政界】参院選後、岸田首相に問われる『覚悟』と『決断』

イラスト・山田紳



見えぬ改憲議論の方向

 今後、具体的な改憲作業が政治日程にのぼりそうだが、改憲勢力の中でも改憲項目を巡っては隔たりがある。

 自民党は独自の改憲4項目として(1)9条への自衛隊明記(2)緊急事態条項の新設(3)合区解消(4)教育の充実―を打ち出している。参院選公約には、4項目を前提に「技術革新、安保環境、時代や社会生活の変化に応じ、憲法をアップデートする」と明記し、「衆参両院憲法審査会で改正原案の国会提案・発議を行い、国民投票を実施し、改正を早期に実現する」と強調した。

 ただ、党内にも9条改正はハードルが高いとして「真正面からの議論は避けるべきだ」との意見がある。緊急事態条項の国会議員の任期延長なら議論が進むとの見方も広がる。実際、新型コロナの感染拡大で衆院選の実施が危ぶまれ、スポットライトが当たった。

 国民民主党も「急ぐのは、新型コロナなどを経験し、いかなるときも国会の立法機能、行政監視機能を止めてはいけないということだ。緊急事態条項は、三権分立を確保するような条項を整えておくべきだ」(玉木雄一郎代表)と主張する。公約にも「緊急事態条項を創設する」と明記した。ただ、憲法9条に関しては「具体的な議論を進める」という表現にとどめている。

 一方、日本維新の会は公約に「緊急事態条項の創設」とともに「平和主義・戦争放棄を堅持した上で9条に自衛隊を規定する」と盛り込んだ。松井一郎代表は7月3日のNHK討論番組で「スケジュールがない議論をいくらしても先延ばしだ。まずスケジュールがあるからこそ、中身の議論が充実できる」と訴え、岸田らに国会発議の目標年月を示すべきだと訴えた。

 これに対し、公明党は9条改正に慎重だ。公約では「自衛隊明記は検討を進める」としたが、わざわざ「9条1項、2項は堅持」と盛り込んだ。緊急事態条項についても「個別法で対応する」としている。ただ、北側一雄副代表は5月の衆院憲法審で、首相や内閣の職務を規定した72、73条に自衛隊を明記する案を示しており、今後は世論の動向を見極めつつ議論を重ねる構えだ。

 岸田自身も参院選期間中は慎重な物言いに終始した。3日の討論番組では「自民党として4つの憲法改正案を掲げているが、どれも喫緊の現代的な課題だ。ぜひ国会議論と国民の理解を進めていきたい」と述べるにとどめた。

 参院選公示日に福島市内で第一声をあげた際には「この選挙を通じて憲法改正をはじめ未来に向けての様々な課題に挑戦する」と街頭演説を締め括ったが、中盤戦以降の街頭演説では「憲法改正」の言葉は聞かれなくなっていた。

 岸田も他の改憲勢力の発言や国民世論を見極めたいようだ。しかも、衆参両院の憲法審査会に自民党改憲原案を示し議論するのか、改憲勢力で事前に原案を練り、足並みを揃えて示すのか。国会での改憲議論の進め方さえ見えてこない。

 しかも、憲法改正案の国会発議にこぎつけられたとしても、その後の国民投票で半数以上が賛成しなければ憲法改正は実現できない。
 岸田周辺は「参院選を乗り切り、2024年9月までに憲法改正が実現できれば総裁再選は確実だ。長期政権になる」といった期待が膨らむ。そうであるなら、岸田には国会の改憲勢力を束ね、できるだけ多くの国民の支持が得られる改憲案をまとめるため、強力なリーダーシップとともに決意が求められる。

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