2022-02-04

【脱炭素】コマツ社長・小川啓之が進める建機「電動化」戦略の中身

小川啓之・コマツ社長



電動化時代にも「コンポーネント」がカギ


 ─ 改めて、コマツが持つ強みは何だと捉えていますか。

 小川 我々の1つの強みは「コンポーネント」(主要部品)です。電動化になったとしても、コンポーネント戦略は引き続き重要です。

 元々、機械の品質や性能のカギとなるコンポーネント、例えばエンジン、トランスミッション、油圧機器、電子機器を我々は自社で開発し、生産するという形で内製化しています。一方、競合他社は外部から調達しています。

 ですから、例えば我々はコンポーネントにセンサーを搭載して、そのデータを活用した建機の稼働管理・分析を行う遠隔システム「KOMTRAX」から稼働状況を把握し、故障予知や部品交換時期予測などのアフターサービスに活用することができます。

 今後、電動化においてバッテリーセル自体をコマツが内製することはありませんが、バッテリーセルを含むモジュールやパッケージなどをマネジメントするシステムは、パートナーと連携して開発していくことになると考えます。その意味でも電動化においても、コンポーネント戦略が重要であることには変わりありません。

 内製化が全ていいというわけではありませんが、関連技術を社内に蓄積していかないと、競合他社との差別化はできないと考えています。やはり、コンポーネントを手掛けている会社が最後に生き残るのではないかと思っています。

 ─ 車体を組み立てているだけの会社は厳しくなってくると。

 小川 そうです。我々のビジネスは新車を販売して終わりではなく、それ以降のアフターサービスやソリューション提供が非常に重要です。

 お客様のライフサイクルコストの中で、新車のコスト割合は2~3割で、残りは例えば燃料費、オペレーターの人件費、修理・オーバーホール費用であり、この部分のコストを下げていくことがお客様に価値を認めていただくことにつながります。ここでもコンポーネントがカギを握っています。

 我々はコンポーネントを通じてお客様とのタッチポイントを増やして、長期的な関係を築いていきます。例えば、我々の純正部品を使っていただくことで我々の売り上げが上がり、お客様にとっては中古車になる時にその価値が上がります。トータルのバリューチェーンでビジネスを考えていくということです。

 ─ 各産業に「GAFA」などITプラットフォーマーが入り込んできていますが、そうした時の対抗策にもなる?

 小川 はい。建機のビジネスではアフターサービスや部品供給が重要ですから、この分野は参入障壁が高いと思います。

 私が常に言っているのは、我々は「モノからコト」ではなく、「モノとコトの両方をやる」会社だということです。

「モノ」は機械の進化であり、自動化、遠隔操作化、電動化、自律化などを進めていきます。「コト」ではお客様の施工オペレーションの「見える化」、最適化を推進しています。その両方の最終点がデジタルトランスフォーメーション(DX)です。

 お客様にアプリケーションやプラットフォームの価値を認めていただき、そこにデータのやり取りを含め親和性の高いコマツの機械を提供していくことで、安全で高効率、高生産性なお客様の現場を実現していくという考え方で取り組んでいます。

林業ビジネスを第3の柱に


 ─ ところでコマツは林業機械にも取り組んでいますが、林業もカーボンニュートラルに向けては重要な産業ですね。

 小川 ええ。林業ビジネスは建設機械、鉱山機械に次ぐ第3の柱として力を入れていきたいと考えています。

 林業ビジネスは木を切る「伐採」だけではなく、木を植える「植林」、「造林」、木を育てる「育林」という循環があります。我々はこの循環の全ての工程の機械化、自動化を進め、「スマート林業」の実現を目指しています。

 例えばブラジルでは、ブルドーザーをベースに開発した植林機によって、苗木を植える地ならしや植え付けの位置情報のデータを活用した植林に取り組んでいます。こうした林業ビジネスに関するソリューション提供を通じて、森林再生をサポートするビジネスを展開していく。それによってCO2削減にも貢献することができます。

 他にも、例えば建設現場における「スマートコンストラクション」の知見を活用して、ドローンを飛ばして森林の密度や木の高さなどを測ることができるようになっています。

 ─ 日本は国土の約7割が森林ですが、この資源を生かし切っていませんね。

 小川 そうですね。その意味で林業を再生しなければカーボンニュートラルは実現しません。木は成長する過程で、光合成によってCO2を吸収して生命活動に必要な炭水化物をつくり、余分になった酸素を空気中へ出します。

 また、木は伐採しても内部にCO2を固定しており、燃やさない限りは出てきません。しかし、ある程度生育するとCO2の吸収は飽和してきます。日本の山は成長しきった木が放置されているところも多く、ほとんどCO2を吸収していない状況もあるようです。

 生育しきった木を伐採することと、切った後に新しい木を植えることで森林を再生することが重要です。植林、造林、育林、伐採のサイクルを適切に回していくことがCO2削減にもつながります。

 ─ その意味でも林業復活が大事だということですね。

 小川 そうです。グローバルで見れば、林業が盛んな地域では植林、造林、育林、伐採のサイクルを回しながら、パルプを作ったりする植林メーカーがいます。こうした企業には我々の機械も入っています。

 スウェーデンには04年に買収した林業機械開発・生産を手掛けるコマツフォレストABがあります。林業機械用のシミュレーターやアタッチメント会社を買収するなど事業を拡大していっています。

 林業ビジネスの売り上げは約1000億円ありますが、24年までに1400億円、40%増を目指して活動しています。

 我々は元々、本業を通じた社会課題の解決を目指して活動してきており、きちんとビジネスになる形で社会貢献していくことが非常に重要だと思います。

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