2022-02-04

【障害を価値に変える】ミライロ・垣内俊哉社長が考える「車椅子に乗っているからこそできること」とは?

垣内俊哉・ミライロ社長



「バリアフリー」が進んだ日本


 ─ 今、障害者は全国で何人いますか。

 垣内 国内では964万人で、全人口のうち約8%、世界では15%で12億人になります。この964万人のうち、外で働ける方は半数程度です。残りの半数は重度の障害があったり、施設にいらしたりして外で働くことはできません。

 今、日本の法定雇用率は2.3%ですが、4%まで伸ばせるということです。また、今後リモートワークが広がり、IT技術が進歩すれば、働ける可能性はさらに高まると考えています。

 2.3%は低すぎますが、ただ上げればいいというわけでもありません。義務的な雇用が広がるからです。数字を追うだけの障害者雇用にはすべきではありません。

 ─ 諸外国の法定雇用率と比べて日本の現状は?

 垣内 例えばギリシャが8%、イタリアが7%、フランスが6%、ドイツが5%、オーストリアが4%となっています。ただし、イギリスとアメリカは法定雇用率があることで逆に差別を生むとして撤廃しました。

 日本はまず、4%くらいまではしっかり目指していくべきですが、同時に障害者雇用のあるべき姿をしっかり検証していく必要があると思っています。

 ─ 垣内さん自身に障害があることで、バリアフリーへの意識が高かったことも事業に影響していますね。

 垣内 そうですね。明治期には舗装された道路やエレベーターもありませんでしたから、私の先祖の苦労は想像できません。その後、日本を築いた先達の方々が環境を整えて下さったことで、今、私は自由に外出することができています。

 例えば、当社が本社を置く大阪は、日本の中でもトップクラスでバリアフリーが進んでいます。1970年の大阪万博のタイミングで点字ブロックが普及し、80年には大阪の地下鉄谷町線の喜連瓜破駅に、日本で初めて駅のエレベーターが設置されました。これがきっかけとなり、全国の駅にエレベーターが設置されるようになったのです。

 ─ 日本のバリアフリーはまだ40年ほどの歴史だと。

 垣内 今、大阪の地下鉄のエレベーター設置率は100%、京都、福岡、仙台、横浜も100%、東京が96%、札幌が98%という状況です。

 一方、海外を見るとフランスのパリが3%、イギリスのロンドンが18%、アメリカのニューヨークが25%という現状で、これほど外出しやすい国は日本の他にありません。

 その意味で、私は本当にありがたい時代に生を受けたと感じています。私の先祖は外に出られませんでしたし、学べなかった。でも私は学ぶことができ、働けてもいる。

 これは先人の皆さんがつくってくれた社会のおかげです。だからこそ、これを後世につないでいかなければなりません。これからを生きる障害者の生活に活かしていかなければならないという思いで、事業を進めています。

 ─ 日本の障害者雇用は物足りない数字ですが、一方でバリアフリー化が進んでいることを生かす必要がありますね。

 垣内 そう思います。外出しやすい環境であることは大前提です。そもそも買い物や食事に行きたいと思えなければ、働いて稼ぎたいとは思えません。

 お金を使える場所なくして就労意欲は高まりませんから、障害者が外出し、消費ができる社会をつくることができるかが、今後の障害者雇用のカギを握っています。残念ながら、障害者のうち7割が1年以内に離職するというデータもあります。これはやはり消費意欲が低いことも要因としてあげられます。

 ─ アクティブに活動ができる社会にすると。

 垣内 私達の事業でも、そのためのコンサルティングを進めています。例えば建物を建てる時に、どうしたら障害のある方が使いやすいのかということをアドバイスしています。

 逆説的ですが、コンサルティングの際には「私の言っていることが全てだと思わないで下さい」ともお伝えしています。私は1人の車いすユーザーでしかありませんから、100人、1000人が同じことを思っているとは限らないからです。

 そこで今、国内では延べ4.5万人の障害のある方々にアンケートを配信できるようにしています。お店を利用してもらったり、商品に関する意見を聞いたりして、その声を企業に届けていく。

 ─ 多くの障害者の声を活用してもらうということですね。

 垣内 ええ。1人、2人の意見で物事を判断するのではなく、マーケティングとして障害者と向き合っていきましょうという提案をしています。障害者の視点を社会に届けていくことをビジネスにしているんです。

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