2021-12-06

【世界シェア首位】THK社長が語る「当社の製品は『縁の下の力持ち』。培った技術を生かして 『モノづくりサービス業』に」

寺町彰博・THK社長



世界シェア首位の「LMガイド」


 ─ THKが開発した「LMガイド」(Linear Motion Guide、世界で初めて直線運動部の転がり化を実用化。機械の高精度化、高速化、長寿命化などを実現する部品)は国内で7割、世界で5割のシェアを持っていますが、これは強みになっていますね。

 寺町 はい。世界初の製品ですから、発売から10年間は同じような部品を作っている会社は1社もありませんでした。当初、LMガイドはなかなか認めてもらえませんでしたが、例えば機械メーカーのアマダさんの非常に高速に動くパンチングプレスのような機械が世の中から求められる中で、軽くて高速かつ正確に動く我々のLMガイドがヒットしました。それからデジタルの時代を迎え、半導体や電子デバイスを作るために、様々な装置が開発される中で、新興メーカーが機械を設計しなければならない局面が出てきました。

 機械メーカーには、伝統的な技術がありますが、新興メーカーには、その技術の蓄積はありませんから、既存の部品を集めて作るのが早いし、簡単かつ高精度な機械装置ができるということで、電子・半導体業界でも認めてもらえるようになりました。

 当社の初年度に当たる71年は3億6800万円の売り上げでしたが、10年間で113億円にまで伸び、その主な売り上げがLMガイドでした。やはり、それだけ成長すると、あの製品は有望らしいということで次々と競争相手が参入してきました。ですから、我々も一生懸命努力を続けています。

 ─ 世界シェア5割を維持しているのは努力の賜物だと。

 寺町 そうです。当社では売り上げ、利益も重要ですが、シェアを最も重視しています。シェアがナンバーワンであれば、我々が1位の座にあぐらをかいていない限り、お客様のニーズは情報として一番入ってくるはずです。そのニーズを真摯に受け止めていけば、長期的に先行していることと相まって、新たな商品開発で更に先を行けることになります。シェアはそのような視点で最も重要です。

 ですから私は常に、業界トップでなければ、いくら利益が高くても長期的に考えたら駄目だということを言い続けているんです。

「ビジネススタイル」を変革


 ─ 寺町さんは、THKはメーカーだけど、基本的にはサービス業だということを強調していますね。この狙いは?

 寺町 当社は「モノづくりサービス業」だと言っています。例えば、IT産業では、システムを構築する時には構想、プログラミングという各工程の中でお金を頂戴していきます。

 そして、コンピュータを納入し、それを保守・管理することや、その中で動くプログラムをメンテナンス、変更するという形で、導入からアフターサービスまで、それぞれの工程をビジネスにしています。

 我々も、お客様から構想をお聞きして、図面を書いたり、人材を送ったりして、ノウハウを提供しています。しかし、今までのモノづくりでは、それらの要素を全てハードに載せて、売り切りのような形になってしまっていました。

 しかし、機械を使われるエンドユーザーにいかに貢献できるかを考えると、実際には単にモノづくりだけではなく、ビフォーサービスからアフターサービスまで一連の工程を、我々がビジネスとしてやっていかなければならないと考えたのです。

 例えばアフターサービスでは、製品にセンサーを設置して故障の予兆を検知するIoTサービス「OMNIedge」を導入することにより、製品が故障して止まる前に手を打つことで、お客様の損害を抑えることができます。

 また、ビフォーの部分でも、今はスピードの時代ですから、お客様とのコミュニケーションプラットフォーム「Omni THK」を利用していただくことで、お客様が使いやすい形で我々の情報の共有化を促進していくことも可能となります。

 ─ その意味で、働き方もそうですし、人材の多様性も進んでいくことにもなりますか。

 寺町 私は社内で、例えば工場では、現場の作業者、オペレーターは自動化やロボットに置き換わると公言しています。しかし、技能工といわれる刃物を使って削る作業をする職人のような技能はもっと磨いていかなければならないと思っています。これまで職人から機械化へという流れがありましたが、これからは逆に職人が重要な時代になるのではないかと。

 そして職人だけでも駄目で、機械やラインをどう構成するかといった生産技術力を持ったエンジニアも必要です。この2種類が現場で必要な人達だと。ですから、現場の人達には、これらの技能、技術のいずれかを磨き上げていって欲しいと言っています。

 ─ こうなってくると、身につけた技術によって、人材は自ずと多様化してきますね。

 寺町 そうです。実力主義に近いといいますか、現場にどれだけ貢献できているかがより一層問われますし、その働きに見合った報酬体系も必要になってくるでしょう。大事なのは、お客様にどれだけお役に立てる付加価値を提供できるかです。

 ─ さらに知恵が問われる時代だということですね。

 寺町 ええ。当社の今の方針は、第1に世界でさらにビジネスを広げていく「グローバル展開」、第2に、新しい時代を迎えて、我々の製品の用途が広がっていますから「新規分野への展開」です。

 そして第3に掲げる「ビジネススタイルの変革」は、一つは先程お話したような「モノづくりサービス業」としてのビジネスで、お客様との接点を広げていくことです。もう一つは、社内で当然に「人」がやるべきことと、コンピュータやロボットがやるべきことを明確化し、自分達の今までのスタイルを変えていくことです。

 これらによって、会社を時代に合った形にどんどんチェンジをしていこうとしています。その中で「人」も変わっていかなくてはならないのです。

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