2021-10-25

【政界】「新しい資本主義」に向けた具体策とは?岸田首相の真価問われる衆院選

イラスト・山田紳



経済安保に注力

 新しい陣容を別の角度から見ると、岸田が経済安全保障に注力する姿勢が見て取れる。

 経済安保担当の閣僚を新設し、衆院当選3回の小林鷹之を大抜擢した。岸田は総裁選で経済安保担当相の新設を訴え、中国などを念頭に半導体をはじめとする重要物資の確保や技術流出の防止に関する「経済安全保障推進法」を制定すると表明していた。

 背後には甘利の影がちらつく。岸田は党政調会長だった昨年6月、本部長として党新国際秩序創造戦略本部を立ち上げ、座長に就いたのが甘利であり、事務局長が小林だった。甘利は小林の起用を岸田に促したとされ、自身の側近の山際大志郎の初入閣が早々に報じられたことで、党内では「『甘利人事』が出すぎだ」との声も聞こえた。

 岸田は経済安保以外にもさまざまな施策を打ち出した。耳目を集めたのは「新しい資本主義の実現」だ。小泉純一郎政権が進めた構造改革に始まり、安倍政権のアベノミクスにも通じる成長重視の経済政策から、成長の果実の分配に重きを置き、格差是正を図る考えだ。

 具体的な政策メニューも披露した。成長戦略として、投資・研究開発・人材育成といった未来への投資を支援する税制改革、原発再稼働を含む「クリーン・エネルギー戦略」の策定などを掲げた。分配の施策としては、子育て世帯の中間層拡大に向け所得を引き上げる「令和版所得倍増」を目指すとした。

 税制の見直しの中で打ち出したのが金融所得課税の強化だった。所得税は、所得が1億円を超えると税負担が低くなる。この「1億円の壁」を打破するため、現在は所得にかかわらず一律20%(所得税15%、住民税5%)となっている株式譲渡益や配当金など金融所得への課税を強化。これにより、所得に占める金融所得の割合が高い富裕層の税負担を増やし、中間層などに分配する算段だ。

 2022年度税制改正の目玉になるとみられるが、これもすべては衆院選での自公勝利が前提となる。岸田はほかにも新型コロナを含む感染症対策の司令塔となる健康危機管理庁の創設、ワクチン接種の完了を証明するワクチンパスポートの電子化による経済再生なども打ち出した。いずれも衆院選前に具体的な成果を示すには難しい項目が並ぶ。

 だが、岸田は「運」に恵まれている。衆院選期間中の24日に投開票が行われる参院静岡、山口両選挙区の補欠選挙は、衆院選の前哨戦となる。山口では自民党候補が圧倒的に優勢で、静岡でも接戦を演じ、全勝か少なくとも1勝1敗となる見込みだ。菅政権で行われた4月の3つの衆院補選・参院再選挙は自民党の全敗で終わっただけに、幸先の良い初陣となり得る。

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