2021-10-05

【岸田・新総理誕生】元通産事務次官が語る「日本再生の道筋」

福川伸次・元通産事務次官(東洋大学総長)


 ─ では、どうやって日本を再生すべきですか?

 福川 まず戦略、ビジョンを固めることです。5GやAIを活用してイノベーション力を高める必要があります。もう1つ重要になるのは「文化性」を高めることです。


 日本は生産性が低いと言われます。生産性の分母は投入労働量で、分子が産出する付加価値になりますが、日本は労働コストを下げて生産性を上げようとしてきました。わたしは分子の付加価値をどうやって高くするかが重要だと考えています。


 それには、文化的要素の高揚が非常に大事になってきます。魅力のあるもの、美しいファッションなどは高くても売れるわけです。これからの企業は、そうした人間の高度の価値に貢献する企業でなければいけない。


 サミュエル・P・ハンティントンが1996年に『文明の衝突』という本を出版しました。彼は世界の文明圏を8つに分け、21世紀に入ると、イスラム圏内部、キリスト教文明とイスラム文明の間、そしてキリスト教文明と儒教文明の間で文明の衝突が起こると予言しました。


 たしかに「文明の衝突」はあるが、「文化に衝突はない」というのが、わたしの発想です。


 文化というものは、みんなが憧れるものです。付加価値も高い。文化は人間として高次の価値です。美しいものは美しいと皆が讃えます。だからこそ、文明には衝突があっても、文化に衝突はない。文化的な要素を高めることが重要だと思うのです。


 今やただ単に安い物を作ればいいという時代ではありません。人類が持つ高次の価値である文化によって、どうやって人々の価値観を充足するかを産業はもっと考えるべきだと思います。


 AIの登場で文化的な価値を計測できる手段を手に入れることができました。さらに価値を高める可能性が出てきています。「国際性」

「革新性」「文化性」を絡めて産業が発展することが可能なのです。産業界はそこに向かうべきだと思っています。


永遠に繁栄する国はない

 ─ 最後に世界情勢について。米中対立は、どう考えていけばいいですか?

 福川 わたしは、まず米国も変わらなければいけないと思います。「アメリカ・ファースト主義」は必ず行き詰まると思います。国内保護主義的な形で産業を育てようとしたら必ず失敗すると思います。


 アメリカという国も弱っていますが、人々の意識が「アメリカ・ファースト」を求めていることが一番の問題です。政治というのは国内利益を擁護するものですが、国際社会の利益と連動して伸びることが前提です。閉鎖的な中で、自分だけが伸びるということはないのです。


 永遠に繁栄し続けた国はありません。政治というのはそういう宿命です。中国にも、その危険性があります。逆にいえば、日本にはこれから浮上するチャンスがあるということです。


 永遠に繁栄し続けて国がないことは歴史が証明しています。だからこそ、そこを塗り替えるほど政治が賢明でなければいけない。日本は早い時期に躓きましたが、今は再建するにはいいチャンスなのだと思います。


 大平正芳元首相が生前、「『ああしてあげる、こうしてあげる』というのは真の政治ではない。国民にやる気を起こさせることが真の政治だ」と言っていました。わたしも本当にそう思います。1人ひとりが当事者意識を持ち、潜在能力を掘り起こし、高めることが大事なのです。






東洋大学総長(元通産事務次官)
福川 伸次
ふくかわ・しんじ
1932年3月生まれ。55年東京大学法学部卒業後、通産省(現・経済産業省)に入省。86年事務次官。88年退官後、地球産業文化研究所顧問に就任(現任)。神戸製鋼所副社長、電通総研社、電通顧問などを歴任。2003年東洋大学理事、12年12月理事長、18年12月総長に就任。

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