2021-08-15

【東急】地下鉄の線路上部に歩行者デッキが誕生 進む「渋谷大改造計画」

地下鉄銀座線渋谷駅の上部に完成した「渋谷ヒカリエ ヒカリエデッキ」(提供:東急)



鉄道需要をどう掘り起こすか?

 着々と進んでいるように見える渋谷大改造だが、コロナ禍が東急に与えている影響は依然として大きい。中でも鉄道事業だ。コロナ禍で外出控えが続いており、鉄道大手各社の業績はJR各社を含めて低迷。東急も2021年3月期の連結決算では562億円の最終赤字に転落した。

 特に東急にとって他社よりも影響が大きいのが定期収入の減少だ。東急電鉄の幹部は「他の私鉄に比べても減少が大きい」と認めた上で、「特に渋谷にはIT企業が集中しており、在宅勤務が進んだため、東急東横線での定期減が進んだ」と語る。

 先払いでまとまった収入が見込まれる上に、安定的な収入にもなっていた定期収入は、在宅勤務が広がった影響により実費精算に切り換える会社が増えてきたことがマイナスインパクトになっている。東急の事業モデルは沿線の宅地開発を行い、自宅からバスを使って駅へ行き、駅から東急線で勤務先へ向かう──というものだったが、その事業モデルが「崩れつつあるのは間違いない」(同社関係者)。

 そこで東急電鉄は定期券利用者向けのサービス「TuyTuy(ツイツイ)」と呼ぶ実証実験を始めた。日々の生活や移動の中で「ついつい」使いたくなるようなサービスを揃える。対象者は定期券の所有者だ。サービスの登録者数は7月初旬時点で約4200人。想定を上回る数になったため、実験の期間を10月末まで延長することを決めた。

 ツイツイではモバイルバッテリーや傘のシェアリングサービスが使い放題になるのをはじめ、シェアサイクルも1カ月で5回30分間は無料で使える。7月からは食品ロスを減らすために、飲食店や総菜店で余った商品を出品できるフードシェアリングサービスの割引特典も追加するなど、定期券の底上げを図る。

 また、変化する働き方にも対応するため、東急は沿線に法人向け会員制サテライトシェアオフィス「ニューワーク」などを整備し、本社と自宅、そして両者の間にあるサテライトオフィスと3通りの働き方を提案。「小さな移動需要を獲得する」(同)。

 沿線住民との接点では、リアルな場だけでなく、デジタルな接点の拡大も試みている。「(200社超の)グループ会社はデジタル化には個別で対応していたが、利用者から見ればバラバラだった」と別の関係者は語るように、東急では鉄道、スーパー、百貨店、映画館、ホテルなど事業分野ごとにアプリが異なるなど連携が不十分だった。

 そこで東急はグループ横断でのデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む新組織「アーバンハックス」を設立。ソニーグループ各社や日産自動車でIoT機器やコネクテッドカーサービスなどの企画・デザインを手がけた宮澤秀右氏がプロジェクトの責任者を務める。

 東急線沿線には500万人超の住民がおり、年間のべ11億人が利用するなど、リアルの顧客基盤は確立している。グループ会社が横断的にこの顧客基盤を生かせるようにDXを推進していくのが新組織の役割だ。

 東急には「DXに関する知見はない」(前出の関係者)。まずは10月を目途に10人程度のソフトウエア人材などを外部から採用し、将来的には50人程度の組織となって各サービスを統一して使えるデジタルサービスを開発していく考え。もちろん、これらのサービスは渋谷でも効果を発揮していくことになる。


ビルの1階から4階レベルの各層がつながり、快適な移動ができるようになる(提供:東急)

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事