2024-04-12

日本製鉄新社長・今井正が背負う課題、USスチール買収で労組・米社会をどう説得するか?

今井正・日本製鉄社長




電炉、水素還元製鉄など「脱炭素」が重要課題

 目の前の現実に対処する一方、将来に向けた課題解決も今井氏に課せられた重い課題。それが「脱炭素」。日本のCO2排出のうち産業界が占める割合は約4割だが、そのうち鉄鋼は15%と最も多く排出している。

 国の支援も得ながら、2050年までの実現を目指す高炉での「水素還元製鉄」、それ以前の2030年までの移行期に向けては「大型電炉」による生産も検討中。場所は九州製鉄所八幡地区と瀬戸内製鉄所広畑地区だが、技術として確立できるか、巨額の投資に対して採算が合うのかという現実的な見極めをしている段階。

 今井氏は「大きな判断をしなければならないタイミングが近づいている」と話す。それは「24年度から25年度にかけて、実質的にゴーサインを出さないと、2030年に間に合わない」から。

「技術系」の今井氏が社長に選ばれたことは、脱炭素が今後の重要な経営課題だという社内外への強いメッセージとなった。今井氏自身も「私が橋本の後任社長に選ばれたということは、当社として(脱炭素を)前に進めるという意志の表れだと思う。使命感を持ってやっていかなければならない」と力を込める。

 厳しい環境に向かうにあたっては国内の基盤整備も重要。日鉄は24年の春闘で、ベースアップに相当する賃金改善を月3万5000円と回答。これは労働組合が要求した月3万円を上回る水準。定期昇給などを含めた賃上げ率は14.2%となった。

「賃金の改定は橋本の決断で大きく前に進んだ。国内の製鉄業で働く人を守りながら、日本のモノづくりの競争力を高めていく。自分も製鉄所出身。しっかりやっていく。人的な競争力は大事。生産労働人口が減少する時代の中で、国内の製鉄所に、引き続き優秀な現場の人材が集まってくれるかは、会社の競争力を左右するファクター」と今井氏。

 社員への賃上げに連動して、協力会社への発注単価も上がる仕組みになっているため、広く還元される。これも製鉄所人材の確保の意味で大きい。

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