2024-04-12

日本製鉄新社長・今井正が背負う課題、USスチール買収で労組・米社会をどう説得するか?

今井正・日本製鉄社長




中国経済の減速が鉄鋼市況の悪化招く

 日鉄は19年に橋本英二氏(現会長兼CEO=最高経営責任者)が社長に就任以降、経営改革により収益の立て直しが進んだ。

 鉄鋼業界を取り巻く事業環境は厳しい。とりわけ中国経済の減速で、鉄鋼需要が減少したことで価格の安い中国製品が東南アジア市場などの流れ込み、市況を悪化させている。今井氏はこの状況に対し「中国では一過性ではない構造変化が起きている」という認識を示す。

 国内事情も厳しい状況には変わりない。コロナ禍からの回復、自動車業界の生産回復はあるものの、資材、物流、人件費の上昇は続いている。

 この状況下、日鉄は21年から瀬戸内製鉄所呉地区(広島県)など4基の高炉休止を含む構造改革を進めてきたが、この計画を策定したのが今井氏。粗鋼生産能力を2割削減するという計画に対し、社内からは「落とし過ぎではないか」という声も上がったというが、「我々の足元の国内粗鋼生産能力は約3500万トンで、その時決めた能力を下回るレベルに留まっている」(今井氏)のが現状。

 これをカバーしたのが、橋本氏が進めてきた鋼材の値上げ戦略。特に、「紐付き」と呼ばれる大口需要家との取引価格を大幅に改善したことが大きかった。

 かつては、例えばトヨタ自動車などの「ビッグネーム」であれば赤字でも受注する傾向が強かったものを「採算を確保できない注文は受けない」という方針に変えた。数量・シェアについても橋本氏は「下がってもいい」とハッパをかけてきた。

 この施策もあり、24年3月期の連結事業利益(在庫評価損益などを除く利益)は過去最高の8900億円を見込んでいる。

 ただ、この価格改善の今後について今井氏は「これまでの経緯で、相当部分我々の主張が受け止められてきたプロセスがある。紐付き価格に対して今後、大幅な値上げは難しいと思っている」と厳しい見方を示す。

 ただ、物流や資材のコスト、人件費の上昇など社会的コストが構造的に上がるために、これを「サプライチェーンで公平に分担する」という観点で、今後も価格改善を進める考え。

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