2024-03-20

【東京メトロ】自らの“地下資源”の有効活用する「お出かけ需要」創造ビジネス

延伸計画もある東京メトロ有楽町線



新線建設や再開発がポイント

 メトロの課題は上場後の成長戦略だ。そこで山村氏は鉄道事業の成長戦略として「お出かけ需要の創出」を掲げる。そもそもメトロの地下鉄沿線には複合施設や観光名所など、様々な観光資源や目的地となる場所が集まっている。それらの拠点を〝つなぐ〟という優位性を生かし、移動需要を取り込む考え。

 その仕掛けづくりは始まっている。例えば、観光バスや水上タクシー、人力車、観光遊覧船などの予約が一括してできるMaaS「my!東京MaaS」や利用頻度に応じてポイントが貯まる「メトロポイント」、インバウンド客を視野に入れたクレジットカードやQRコードで改札を通過できる次世代乗車システムの導入も検討している。

 そして期待されるのが30年代に予定されている2つの新線建設。有楽町線の豊洲―東陽町―住吉間は東西線の混雑緩和と同時に、〝陸の孤島〟と呼ばれる江東区の地域活性化が期待される。延伸が実現すれば深川など古くからの下町情緒が残る区北部と南部の有明や豊洲といった新住民が住む区域が結ばれる。もう1つの南北線の延伸は白金高輪―品川間。リニア中央新幹線の始発駅かつ羽田空港へのアクセスの向上にも寄与できる。

 次に山村氏が力を入れるのが不動産事業だ。もともとメトロは非鉄道事業の比率が約1割と5割超を占める他の私鉄より後れを取る。別の幹部は「他の民鉄と比べても地上で保有する土地が圧倒的に少ない」と話す。

 ただ、メトロには〝地下〟という自らの経営資源がある。例えば、虎ノ門駅や虎ノ門ヒルズ駅に象徴される駅周辺の再開発。駅を絡ませた周辺一帯再開発で「街の顔が変わる」(関係者)ほどのインパクトがある。

 虎ノ門ヒルズ駅では地下2階から地下1階の日比谷線を眺めるという珍しい光景ができた。都心では再開発が活発化しているが、少しでも資産価値を上げ、利便性を高めるには〝駅直結〟という売り文句が欠かせない。そのため「沿線で再開発を計画する不動産会社や土地オーナーから声がかかる」(都市・生活創造本部の幹部)のだ。

 また、地下鉄という性質上、メトロは駅近隣にエレベーターを設置したり、沿線には換気口などを作るための小さな土地を数多く保有している。「再開発の事業体の前面に出なくても再開発に絡んでいけるという強みがある」(同)のだ。渋谷や新宿、池袋の再開発はその典型例。メトロが再開発の事業主体にはなっていないが、地権者として名を連ねている。

 その意味では、今後は銀座線沿線が熱そうだ。本社の建て替えを予定するホンダが立地する青山一丁目駅や明治神宮外苑で三井不動産による再開発が進む外苑前駅などがあるからだ。駅のカタチが変われば人を呼び込むきっかけにもなる。

 本業である鉄道に磨きをかけながら、自社の経営資源の新たな活用策を模索するメトロ。新線建設も再開発も多額の投資がかかる。上場を機に次のステージに上がっていけるか。同社の知恵が試される。

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