2024-03-21

森ビル社長・辻 慎吾の「街をつくり、街を育む!」

辻慎吾・森ビル社長




各ヒルズがつながる!

 同社が、港区を中心に大規模都市再開発に取り組んだのは、アークヒルズが最初(竣工は1986年=昭和61年、開発区域面積は5.6ヘクタール)。そして、2003年(平成5年)にオープンの六本木ヒルズ(開発区域面積は約11ヘクタール)、2014年(平成6年)オープンの虎ノ門ヒルズ(同7.5ヘクタール)、今回の麻布台ヒルズ(同8.1ヘクタール)と続いてきた。

 今は『六本木五丁目開発プロジェクト』(同約8ヘクタール)に取り組んでいるが、これらのヒルズが今、つながろうとしている。

 辻氏は、各ヒルズはそれぞれ独自の開発コンセプトを持ちながらも、各ヒルズがつながることで全体的に調和が取れると次のように語る。

「虎ノ門はグローバルビジネスセンターのつくり方をしています。六本木は文化都心になります。麻布台は住むのを含めて、グリーン&ウェルネスと。だから、それぞれのコンセプトは違います。ただ、各ヒルズがつながり合わさると、全体的なコンセプトを持つことになる。例えば、文化施設を取ってみても、アークヒルズにはサントリーホールがあり、クラシック音楽の世界を代表するものがある。六本木ヒルズには森美術館があり、現代アートでは今や世界有数の存在になっています」。

 虎ノ門ヒルズでは、『森タワー』が2014年に竣工したが、住宅棟2棟も手がけ、そして『ステーションタワー』が昨年秋にオープンしている。併せて、すぐ下を通る地下鉄の東京メトロ(日比谷線)は〝虎ノ門ヒルズ駅〟を新設。交通の便がさらに良くなった。

 同社が初めて大規模都市再開発に取り組んだアークヒルズの開設から38年が経つ。一連のヒルズ建設での緑(緑地)づくりは12ヘクタールの累積となる。

「都心のこの狭いエリアに12ヘクタールって大きな公園です。それを創り出すというのは、なかなか難しいんだけれども、緑を一生懸命つくって来たら、足してみると12ヘクタールになっていました」

 辻氏が続ける。

「何といっても環境にいいということですね。真夏の気温を、六本木交差点と六本木ヒルズで比べても、5度から10度も違う。コンクリートと建物だけの交差点と、緑があるヒルズではそれほど温度差が出てくるんです」

 都市管理上も、緑の広場は大事ということである。


「軸をぶらさずに」

 辻氏は1960年(昭和35年)9月生まれの63歳。85年(昭和60年)、横浜国立大学大学院工学研究科修了後、森ビルに入社。アークヒルズが完成する1年前のことである。

 2011年(平成23年)6月、同社2代目社長・森稔氏の後を受け、50歳の若さで社長に就任。東日本大震災が起きて3か月後のことであった。

 入社して36年。この間、バブル崩壊、リーマン・ショック(世界規模での金融危機)、東日本大震災と数々の危機に見舞われる中、多くの街づくりを体験してきた。

 トップとして最初の試練は、辻氏が社長に就任して9か月後、前社長の森稔氏が2012年3月に逝去した時。

 東日本大震災が起きた1年後で、日本経済全体が〝失われた20年〟のデフレ下で沈滞していた。「経営環境としては結構厳しかった」と辻氏も振り返る。

 その頃、同社は森稔氏が心血を注いだ六本木ヒルズ竣工(2003)から8年余を経て、次の虎ノ門ヒルズ建設に取りかかっている最中。森稔氏のヒルズ建設にかける思いを熟知していた辻氏だけに、目標完遂に向けて、自らの肩にかかる責任の重さを感じる日々であった。

 経営努力を重ね、厳しい環境を乗り切り、虎ノ門ヒルズ森タワーを完成させたのは2014年。そして虎ノ門ヒルズステーションタワーができたのが2023年10月。住居棟も含めた同地区の開発はつい最近までかかかったということ。

 コロナ禍を経て、2024年3月期の業績は、営業収益(売上高)3530億円(前年同期比23%増)、営業利益755億円(同19%増)と、大幅な増収増益の見通し。

 この数年間、大型投資が続き、有利子負債は1兆4275億円(21年3月期)から1兆6314億円(23年9月中間期)と増えたが、自己資本も5597億円から6903億円と増加。自己資本比率も24.5%から26.1%と安定的に推移。財務に配慮しながらの投資。

 都市開発は実に息の長い仕事─。麻布台ヒルズに至っては約300人の地権者と協議、対話を重ねて、2023年11月、約35年の歳月をかけて完成させている。

 同社が手がけてきた都市再開発はいずれも長い歳月を要した。アーク、六本木の両ヒルズは共に約17年の開発期間となった。麻布台に至っては地権者の多さから約35年もの歳月がかかったが、同社の経営理念の1つとして、「決して諦めないこと」を辻氏は挙げる。

 土地開発は利害が錯綜するだけに、対話、協議に時間がかかる。粘り強く話し合いを進めていくには、それこそ誠実な対応が重要になる。

 森ビルの実質創業者でもあった森稔氏は生前、「いろいろありましたが、森稔はウソを言わなかったと完成後に言われたのが嬉しかった」と筆者に語っていた。要は、中長期にブレずに仕事に取り組む姿勢である。

 誠実に対話を重ね、物事を成就していく姿勢は、今日の辻氏の経営に受け継がれている。

「軸をぶらさずに仕事をしていくことが大事」─。20年、30年の中長期で仕事をしていると、いろいろな事が起きるし、変化にも遭遇する。「環境が変わっている時こそ、変わらないものは何だと考えるようにしています」という辻氏である。

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