2024-01-12

日本製紙が進める「エリートツリー」植樹戦略 『森林の少子高齢化』にどう対処するか?

エリートツリーを社有林にも植えている(静岡県)



ユーカリの苗木生産技術を活用

 民間企業がエリート苗を量産するのは日本製紙が初。森林総合研究所などから種を購入し、山地などに植えられる大きさにまで育てる。林野庁は19年実績の苗木需要本数7000万本のうち、エリートツリー比率が3%程度だったのに対して、30年にはエリートツリー比率を30%、50年までには90%にする計画を立てている。

 そこで日本製紙は国内約400カ所、約9万ヘクタールの社有林を活用し、30年度には国の目標の約3割に当たる年1000万本分の苗木を生産していく計画。同社は23年10月に原材料本部に「エリートツリー推進室」を設置し、生産した苗木の大半を外販するほか、社有林は将来的には全量をエントリーツリー化していく方針を掲げる。

 既に日本製紙は生産でも本腰を入れており、6県で閉鎖型採種園・採穂園を整備。ビニールハウス型の閉鎖型の施設にすることで混入物を避けてエリートツリー同士の確実な交配を実現する。その苗木も通常の半分程度に当たる1年で生産可能だ。

 他にも、高さ10センチ程度の小さな枝から挿し木ができる独自技術を開発したり、1本ずつ育成する容器なども製造し、各地の事業者に提供していく。

 同社がエリートツリーに参入できたのは海外では製紙原料であるユーカリを植林し、苗木生産技術を磨いてきたからだ。「どのような土や肥料が必要で、生育環境をどう整えるか。そういった苗木生産におけるノウハウを活用できる」と根岸氏。

 中小企業主体の苗木生産者は林業の衰退により1970年代と比べて95%以上減っている。日本製紙の参入は今後の需要増を補い、苗の供給不足の解消にもつながると期待される。

 また、地元の苗木生産者との共存共栄も進める。根岸氏は「自社で生産された種子や穂木は協業する地元の苗木生産者に配布し、育成してもらった苗木は当社が全量を買い取る。それを社有林で活用したり、外販する上に苗木生産の技術支援や資材は全て無償提供する。地元の生産者を増やすことで苗が多く育ち、エリートツリー比率を高めることができる」と話す。

 ただ、エリートツリー自体が収益性の高い事業ではない。価格は1本200円程度。通常の苗木と「さほど変わらない」(同)。1000万本販売しても最大で約20億円程度で、売上高が約1.1兆円の日本製紙全体から見ても微々たるもの。住友林業も複数の場所で採種園・採穂園を整備するなど追随している。

 国内林業の活性化と脱炭素社会の実現、さらには花粉症発症者の減少など社会課題の解決を一気に進めるエリートツリーの普及が急がれる。

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