2024-01-12

日本製紙が進める「エリートツリー」植樹戦略 『森林の少子高齢化』にどう対処するか?

エリートツリーを社有林にも植えている(静岡県)

日本の森林をどう生かすか─。国土の約7割を占める豊富な資源と見られてきた林業だが、人手不足や林業経営の厳しさが増す中、成長軌道に乗れずにいる。そんな中で成長が早くて花粉量も少ない樹木が関係者の熱い視線を集めている。それが「エリートツリー」だ。『森林の少子高齢化』が進む中、製紙大手の日本製紙が解決の糸口を探っている。

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林業を取り巻く社会課題

 日本の国土の約7割を占める森林。だが、林業従事者の人手不足や採算割れする林業経営、さらには脱炭素など有効な資源をうまく活用できないでいるのが現状だ。特に林業従事者は1985年に14.6万人いたが、20年には4.4万人に激減。その後は横ばいが続いている。

 実はこれに加えて足元で深刻になっているのが森林の高寿命化。日本は高度成長期に旺盛な住宅需要に対応しようと植林を実施したのだが、それらの人工林が植栽後約50年を迎えてもなお、伐採されずに残っているのだ。現在、日本の人工林で樹齢50年を超えた木が全体の半数以上を占めている。

 更に若い木の植林も進んでおらず、伐った後も3割超しか植林されない。というのも、現在の再造林費用は立木販売収入を上回っており、植えても赤字という状況になるからだ。中でも費用の約半分を占める「下刈り」という雑草除去作業が大きな負担となっている。背景にはコスト負担と人手不足がある。

 そもそも高齢の木は二酸化炭素(CO2)の吸収量が減少する上に、スギやヒノキの花粉量は植栽後30年から増加する。現在の日本で花粉症を発症する人が増えている1つの要因になっているのだ。森林のCO2吸収量の向上には、成熟した人工林を「伐って、使って、植える」といった若返りが必要になる。

 この〝森林の少子高齢化〟に対して製紙大手の日本製紙が手を打ち始めている。それが、成長が早くて剛性が高い一方、花粉量は少ない樹木「エリートツリー」だ。エリートツリーは成長性とCO2吸収量が一般樹木の1.5倍、花粉の量も半分以下という優れもの。そこで同社は、いち早くエリートツリーの苗木生産に乗り出している。

 原材料本部林材部エリートツリー推進室室長の根岸直希氏は「エリートツリーは林業のコスト対策、地球温暖化対策、花粉症対策に大いに貢献できるため、日本林業の切り札とも言える」と強調する。同社はエリートツリー苗の育成に必要な事業者の資格「認定特定増殖事業者」を6つの都道府県知事からの認定を受けて取得。24年度から苗木の生産を本格化する予定だ。

 エリートツリーがどのようにして林業のコスト削減に寄与するのか。大きな要素は前述した下刈りの期間短縮効果が挙げられる。エリートツリーは初期成長が早いため、下刈り回数が低減する。植栽後、数年で下刈り作業が必要なくなる約1.6メートルまで成長するからだ。結果として、従来5~6回行っていた下刈りの作業が1回、多くても2回で済むようになる。林業従事者にとって大きな利点となる。

 中長期で見ても、伐期が50年から30年に短縮されることが見込まれるため、これによる作業量低減で育林コストの削減も見込める。コストの大部分を占める下刈りの作業が減る分、利益率は高まる計算になる。

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