2023-12-22

キヤノン会長兼社長CEO・御手洗冨士夫「日本には日本の、米国には米国のやり方がある。各々の国にあった経営を」

御手洗冨士夫・キヤノン会長兼社長CEO

日本の伝統に基づいた経営を行っていく



 ─ キヤノンは連結ベースで海外売上高比率は約80%を占めるなど、グローバルに事業を展開しているわけですね。日本で経営をするのと、海外で経営をするのとでは考え方も違ってくるかと思いますが、その辺のスタンスについてはどう考えますか。

 御手洗 日本には日本の良さがありますし、米国には米国の良さがあります。

 例えば、日本は島国ですし、国内のどこでも日本語(標準語)を解します。ここ最近は変化がみられるとはいえ、まだまだ日本のマジョリティ(過半)は終身雇用の形態をとっています。そして、そういった社会の中での基準は「平等」です。

 経営は合理的であるべきです。日本では、日本の文化・伝統・慣習に基づいた経営を行うのが合理的なわけです。日本的経営は古いと言う学者もいますが、わたしはこの合理性をベースに経営をしていますし、それがキヤノンの経営です。

 ─ 日本には日本のやり方があると。

 御手洗 そのとおりです。一方、米国は多民族の社会です。多民族、多宗教、多言語の社会では、ルールとレギュレーションで社会が動きますし、そのような社会では「公平」が基準になります。

 さらに言えば、公平というのは競争の原理であり、平等というのは非競争の原理です。従って、経営においても、米国においては、働く人たちを評価するのに、平等ということはあり得ないのです。

 ─ 米国は公平をベースにした競争の社会、日本は平等をベースにした非競争の社会であるということですね。

 御手洗 もちろん、日本にも競争部分はありますが、大枠で言えばそのとおりです。ただし、どちらが良くて、どちらが悪いということではありません。

 日本では日本の文化や慣習をベースにしたやり方を、米国では米国のそれをベースにした経営をすることが最も合理的なわけです。日本にいて、米国の経営をマネすることがグローバル経営ではありません。

 ─ 日本では年功序列・終身雇用を継続する考えですか。

 御手洗 当社は雇用、とりわけ終身雇用を大切にしています。しかしながら、年功序列は全く排しています。

 当社では2002年から管理職、2005年からは一般職にも役割給(職務給)を取り入れています。役割給では、それぞれの仕事の内容に応じて処遇が決まるため、全員の賃金が一律に上がる定期昇給のような仕組みはありません。ただし、日本では欧米のようにシングルレートの職務給は取り入れにくいので、同じ役割でも1年間の業績によって昇給する仕組みにしています。つまり、終身雇用であるけど、競争原理が働く仕組みということです。

 ─ 雇用を守りながらも、競争させるところは競争させるというメリハリのきいた働き方になっていると。

 御手洗 そのとおりです。当社には『人間尊重主義』、『実力主義』、『健康第一主義』という企業精神があり、『三自の精神(自発・自治・自覚)』という行動形式がある。これらはいずれも、人をつくることが会社をつくることだという基本的な考え方です。

 これはわたしの経験からいっても正しいと思います。今後も人をつくり、人を大事にする経営に徹していきたいと考えています。

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