2023-11-06

“ジョブ型”雇用システムの導入から3年、『富士通』ビジネスモデル改革の成果と課題

2024年度上期には本社を東京・汐留から川崎に移転。個人の働き方やオフィスのあり方の見直しが続く(写真は新本社となる川崎工場)


会社がキャリアを決めるのではなく…



 富士通の2023年3月期の連結売上収益は3兆7137億円、営業利益は過去最高益となる3356億円。売上収益利益率は9.1%と、真のグローバル企業を目指すのであれば、最低限となる利益率2ケタまでもう一歩のところまできた。

 同社は今、大きな転換点にある。それは社長の時田隆仁氏が繰り返す「IT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業へ」の変革だ。

 同社は昨年、メインフレーム(大型汎用コンピューター)の生産を2030年で撤退することを決めた。2022年まで出荷台数は23年連続国内市場シェア1位を維持し続けているだけに、業界内では衝撃が走った。国内首位の企業であっても、もはやサーバーなどのコストを削減でき、柔軟にシステムを拡張できるオープン化、クラウド化の流れには太刀打ちできないことの裏返しでもあるからだ。

 今後、富士通が目指すのは、サービスソリューション(ITサービス)の拡大。25年度までの3年間に同分野の売上高(22年度は約2兆円)を20%向上させる計画で、ハードありきだった従来のビジネスモデルを改め、収益性の高いデジタル・クラウドサービスに注力する考え。

 こうした流れの中、〝手段〟として出てきたのがジョブ型雇用システムへの移行。雇用システムから改革し、働く人の意識を変え、企業文化を変えていかないと、グローバルでの競争に打ち勝つことができないからだ。

「ジョブ型への移行に当たり、組織設計のあり方や報酬制度、事業部門を起点とした人材マネジメント、キャリア育成など、それぞれの施策が関連していることを丁寧に説明し続けているので、大幅な制度改革について社員の腹落ちはできていると思っている」(平松氏)

 会社として、このような方向性を打ち出した結果、22年には50代以上の幹部社員約3千人が希望退職に応じた。今回の雇用改革の成果は、ビジネスモデルの転換が成功するかどうかのカギとなると言っていい。

 平松氏は「持続的な企業価値向上を実現するのが人的資本経営の目的。そのためにはビジネスにアサイン(割り当て)した人材ポートフォリオを描いて、そのギャップを戦略的に埋めていく必要がある。富士通含む日本企業の低成長の原因は、これを戦略的、大胆にできていなかったからではないか」と指摘。

 その上で「とても難しいチャレンジだが、データを最大限活用し、試行錯誤からの学びも可視化して、経営や人事が継続的に人材ポートフォリオの議論をしていきたい」と語る。

 会社がキャリアを決めるのではなく、これからは自らが決める時代。富士通が真のグローバル企業へ変革するためには、社員それぞれの意識改革が成否のカギを握っている。

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