2023-11-06

“ジョブ型”雇用システムの導入から3年、『富士通』ビジネスモデル改革の成果と課題

2024年度上期には本社を東京・汐留から川崎に移転。個人の働き方やオフィスのあり方の見直しが続く(写真は新本社となる川崎工場)



 同社では社員の要望を受けて、社内インターンシップや社内副業に向けた制度を導入。また、会社や上司に仕事やキャリアを考えてもらうのではなく、自らが自律的にキャリアを考える「キャリアオーナーシップ」研修を実施。社内のWEB上で簡単な質問に答えるだけで、自分自身のキャリア状況が診断できる「キャリアオーナーシップ診断」も始まった。

 2020年には、翌年の新任課長600人のポジションを、上司の推薦ではなく、全て意欲を持った人たちのポスティングで決めると宣言。その結果、この3年間で、国内グループ8万人のうち、2万人近い社員が何らかのポジションに応募し、7千人が合格している。

「想定以上に社内の人材流動化が高まり、キャリアオーナーシップ意識の向上につながっていると思う。この人材の流動性の高さを個人と組織の成長につなげていきたい」(平松氏)

 こうした施策の結果、同社の調査によると、社員のエンゲージメントポイントは2019年度の63から22年度の69に上昇。ただ、同社が目標とする75にはまだまだ遠いのが現状だ。

 一般的にジョブ型のような実力主義を取り入れると、どうしても社員の会社に対する帰属意識が薄れてしまうと思うのだが、その辺のバランスはどう考えているのか?

 平松氏は「繰り返し言っているメッセージが自律と信頼。会社は社員を信頼して制度設計をし、社員の行動を促していく。そして、社員は安心して、信頼関係のもとに自律的にチャレンジし、キャリアを考えていくと。自らキャリアを選択しなければいけないのは、ある面では厳しいかもしれないが、会社から信頼されているからこそ自分で選択できるんだということで、従来よりも会社に対してのエンゲージメントは改善してきているのではないか」と語る。

 キャリア論が専門の、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔氏は、「仕事は与えられるものではなく、社員が自ら生み出していくもの。ジョブ型を根付かせない限り、日本企業の躍進は無い」として、主体的なキャリアオーナーシップができていれば、結果的に会社への帰属意識は高くなると指摘。

 その上で、「ジョブ型の目的は、人材をコストではなく資本と捉える人的資本の最大化。ただ、メンバーシップ型で同期がいて共同体的な組織ができているのは日本の強みでもあるから、欧米のジョブ型をうのみにせず、自分たちの可能性を伸ばし、人を活かしていく日本的でハイブリッドなジョブ型を目指してほしい」と語る。


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