2023-11-13

亀田総合病院理事長・亀田隆明「重症患者を受けいれる最後の砦の機能を果たし、軽症・中等症患者は他の病院へと、手分けしました」

亀田隆明・医療法人 鉄蕉会 亀田総合病院理事長



手術数はコロナ下でも増加

 ─ こういった多額の投資がかかる決断ができたのは亀田さんのオーナーシップですか。

 亀田 大学病院が手術室を新設する場合、だいたい5年近くかかります。しかし、今回の当院の取り組みは構想を得てから半年ほどで完成に漕ぎつけることができました。そのお陰で病院をたらい回しになっていた患者を当院で受け入れることができたわけです。

 そもそも患者を断るという発想は私たちにはありません。コロナの患者の命を助けることも大事ですが、それ以外の多くの患者の命も当院は基幹病院として預かっています。急性期医療を必要とするあらゆる患者が、いかなる状況下でも安心して治療に向き合える環境は必要不可欠でした。

 コロナ下で各病院の手術数は大幅に減りました。しかし当院はコロナ下でも手術数を毎年700~800例の規模で増やしています。

 ─ 今はオミクロン株が主流ですから安心できませんね。

 亀田 オミクロンはデルタとは別物です。急性呼吸器症候群はほぼ起こさない点がデルタとは大きく異なります。ですから、2類から5類に分類されたのも相当だと思います。

 外来専門の亀田クリニックには毎日2000人以上の外来患者が、また亀田総合病院には毎日多くの入院患者が来院します。新型コロナで入院治療中の患者数は約30人であまり変わっていません。その意味では、補助金もほぼなくなりましたから、病院の再編が起きてもおかしくはないと思いますね。

 ─ 年間の社会保障費が約140兆で、医療費は約44兆円です。財政が厳しくなる中で人口も減る。日本の医療体系をどのようにすべきだと考えますか。

 亀田 やはり効率を高めることが必要です。産業界でもゾンビ企業という言葉がありますが、十分な活動実態のない企業を補助金などで生き延びるようにしていては産業界全体のクオリティが上がりません。これは医療の世界でも同様です。

 財政出動をしなければならないとしても、受ける医療のレベルが低いままでは問題があります。ある程度、淘汰されていくことが必要ではないでしょうか。そもそも日本の病院数は世界と比較しても圧倒的に多く、約8000強あります。しかもほとんどが小規模です。

 一方で米国は人口が日本の約3倍ですが、病院数は約5000です。他国でもおおむねそのような割合です。ある程度集約しないと医療レベルも上がりませんし、働き方も改革できないでしょう。例えば、60床の病院の場合、当直のドクターが必ず1人必要になりますが、常勤医が3人しかいなかったら成り立つでしょうか。そういう事例が山ほどあるのです。

 ─ 政治決断になりますか。

 亀田 そうですね。本来であれば、制度を変えることが最も効果的ではないかと思います。例えば、支払い方式です。日本では患者が入院する場合、診断群分類に基づいて在院日数に応じた1日あたりの定額報酬を算定する診療群分類包括評価(DPC)になっています。

 これを米国のように、疾病ごとに、治療内容や入院日数にかかわらず、あらかじめ決められた一定額の報酬を支払う1入院あたり包括支払い方式(DRG)にすれば、早く治して退院を促進させるインセンティブが働きます。DPCだと長く入院させた方が、収益があがる仕組みになってしまいます。

 同様にDRGであれば、同じ病気で手術も同じ場合には、手術を一度で成功させれば収益につながり、うまくいかなければそこからは病院側の負担になります。ただ、DRGでは手術が成功すると、すぐに退院しなければなりません。このあたりのバランスをうまく考えていけば、効果的な手法になると思います。


「オルカ鴨川FC」が初優勝

 ─ 何事もバランスが大事ですね。さて、今年は亀田総合病院がスポンサーを務める女子サッカーチームがリーグ初優勝を果たしましたね。

 亀田 女子サッカーのプレナスなでしこリーグ1部の「オルカ鴨川FC」が創立10年の節目の今年、リーグ初優勝を果たしました。そもそもこのチームは東日本大震災によって引き起こされた福島第一原発の事故で、日本サッカー界初のナショナルトレーニングセンターだったJヴィレッジが閉鎖されたことがきっかけで生まれました。

 当時日本サッカー協会に知り合いのいた当院のスポーツ医学科の医師から提案があり、女子サッカーチームとして14年に創設されました。選手の多くが亀田グループの職員として働き、夕方から練習に汗を流し、毎週末、公式戦に臨むというスケジュールをこなしています。

 そんな彼女たちが優勝したことで、地域の皆様にも元気を与えることができたのではないかと思っています。

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