2023-10-30

河北医療財団理事長・河北博文「これからの日本には生活を支える医療、病気との共生という考え方が必要になる」

河北博文・河北医療財団理事長

「これからの時代は病気との共生も必要になってくる」─。自然は敵対すべき存在ではなく、自然との共生が言われるように「例えば、がんを全て切り取るのではなく共生していく。自分が亡くなる時にがんも消えてなくなるという医療をつくるべき」と河北氏。生きるとは何か、働くとは何かという根本問題の中で、医療は社会の仕組みづくりと大いに関わってくる。社会運営に必要な基軸とは何なのか。

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社会の変化と「憲法」との関係

 ─ 前回、国として、そのあり方を打ち出すことが重要だという指摘をされました。戦後78年が経ち、日本としてどういう発信をすべきか。

 河北 国家は地球国家のようなもので、1つの国家ではないと思います。各々の個別国家から世界国家観を持つ必要が大切になりました。1929年の世界大恐慌の後、ナショナリズムが勃興、1944年の「ブレトン・ウッズ体制」に至るまではブロック経済の時代で、それを戦争が終わらせた。

 それが今、米国を中心として集まる国、ロシア、あるいは中国に寄っていく国といった形でブロック化してきています。まさに1930年代の日本が経験したことです。本当は、こうした状況がよくないのだということを、日本の総理などは発信すべきだと思います。

 ─ 8月15日の終戦記念日には戦争や国のことを考えて終わるのではなく、日々国のあり方を考え続けることが大事ですね。

 河北 そう思います。日本国憲法は1946年11月に公布され、施行されたのは1947年5月です。この際、憲法に合わせて様々な法律を作り直しています。この時、吉田茂首相が、旧憲法下の最後の首相として、天皇陛下から指名されました。今は国会の議決ですが、当時は天皇の指名です。

 この時、天皇陛下が吉田首相を呼び指名したわけですが、天皇陛下は「新しい憲法の下で自分はどうあるべきか」とご下問されたのですが、吉田首相は首相でありながら、すぐには答えられなかった。

 ─ 新憲法では「象徴」とされましたが、吉田首相はその場では答えられなかったと。

 河北 はい。昭和天皇は聡明だったと思うんです。明治憲法下では天皇は全ての統帥権を持っていましたから、敗戦後には戦争責任を取るかどうかという状態になりました。政治に翻弄される立場だということを、最も強く感じておられたのは昭和天皇だっただろうと思います。

 天皇陛下を「象徴」としようという考え方は明治からありました。その1つが福澤諭吉が書いた『帝室論』です。この中では象徴という言葉は出てきませんが「皇室は政治の枠外にあるべきことを説く。立場に関係なく全国民は同等に皇民であるとし、皇室は特定の政党に関与すべきではないことを主張する」と天皇の立場を定義しています。

 ─ 天皇を政治に巻き込まないという考え方ですね。

 河北 そうです。なぜ、こうしたことを福澤が書いたか。彼は米国に留学した際、アレクシス・ド・トクヴィルが書いた『アメリカのデモクラシー』を読み、民主主義を勉強したのです。

 トクヴィルはフランス人ですが、9カ月間、米国を旅して、米国がなぜデモクラシーをつくってきたかについて研究しましたが、デモクラシーは産業革命に端を発しています。

 蒸気機関から始まった産業革命で庶民の生活は豊かになりました。豊かになると物事を考える時間が増えます。物事を考え始めると、社会に関していろいろ意見が出てくる。

 ─ その後、米国の独立などにつながっていきます

 河北 はい。社会が豊かになり、1776年に米国の独立宣言、1789年から始まったフランス革命につながったわけですが、その過程で民主主義が育ってきました。それを書いたのがトクヴィルであり、その本を読んで、日本もこういう社会になって欲しいと書いたのが『帝室論』なんです。

 この『帝室論』を読んでいたのが、後に日本医師会会長を務めた武見太郎です。武見太郎から、この本の内容を吉田茂が聞き、新しい憲法につながっていくわけです。

 憲法という文章が大切なのではなく、憲法が描く社会のあり方が大切なんです。文章そのものを重視するのではなく、憲法がどんな社会を想定して、その社会をつくり、維持、発展させるための文章でなくてはならないわけです。

 ─ あるべき姿を考えての憲法だと。

 河北 例えば福澤諭吉が明治時代に考えた日本社会、敗戦後に我々が考えた社会、そして我々がこれから考えていく社会など、それぞれ違うと思うんです。その意味では、描く社会が変わっていくのであれば、憲法は改正すべきだということです。

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