「病気との共生」も必要になる時代
─ 河北さんはこれまで「家庭医」の重要性を説いてこられましたが、今後の日本の医療に必要なことは何だと考えますか。
河北 コロナ禍で顕在化したのは、医療のあり方の問題です。私は昔から考えてきたことですが、誰もみんな意見を言いません。なぜなら、今のままでみんな食べていけるからです。
しかし私は「プライマリ・ケア」、「スマート医療」、「医師国家試験」、「家庭医」など様々な改革を訴えてきました。
プライマリ・ケアの日本語訳はおそらく「生活医療」です。これは生活を支える医療であって、疾病と対峙する医療ではありません。日本は疾病に対する医療はあるところまで来ていると思いますから、今後は生活を支える医療に転換していくことが大切です。
よく「自然との共生」が言われますが、自然は敵対すべき存在ではありません。それを同じように、これからの時代は病気との共生も必要になってきます。例えば、がんを全て切り取るのではなく、共生していく。自分が亡くなる時にがんも消えていくという医療を、これからつくっていかなければいけないと思っています。
─ 医療の立ち位置がこれまでとは違ってきますね。
河北 はい。先日、ゴルフで一緒になった人から聞いた話です。友人に医師がいるそうですが、その方からiPS細胞を使って若くいられるという、新たな治療法を試させて欲しいと言われたそうです。そういう医療が必要かどうかといえば、私は必要ないと思っています。
─ その理由は?
河北 医療の役割として、ある期間健康に生きることを支えることが重要です。生きるということは生活です。それを不自然に若さを保つとか、長生きをさせるといった医療はやってはいけないと思うんです。
なぜなら、新しい命が生まれなくなるからです。種は循環しなければいけません。循環しないような領域に、医療は手を出してはいけないと思うんです。そうした考え方に基づいた地域医療を、我々の財団はやっていきたいと思います。