小児科で重視する「心のケア」
─ 現在、自らの病院における課題をどう感じていますか。
河北 私には後を頼みたい息子がおり、河北総合病院で共に働いていますが、なかなか意見を同じに出来ないのが前回もお話した小児科医療です。当院には小児科医が10名近くいますが、我々くらいの規模の小児科であれば2、3名で行うのが通常です。
─ なぜ、10名近くの人数を確保しているんですか。
河北 それは他の小児科医がやらないことをやっているからです。それが「心のケア」です。
これは金銭的利益につながるものではありません。保険点数が増すような話ではありませんし、時間もかかります。
かつ、当院には「心のケアセンター」というケア部門があり、公認心理師/臨床心理士が10名ほどいますが、これも利益にはつながっていません。患者さんからの相談には診療報酬はつかないからです。
基本は患者さんの自費なのですが、自費で支払えるような状況にない家庭のお子さんも多く、無料で診させてもらうことも多いんです。そして非常に時間がかかる診療になります。
さらに、当院の公認心理師/臨床心理士にはいくつかの仕事がありますが、そのうちの1つが職員の心のケアです。特に患者さんに接する職員は心理的負担のかかる仕事で疲弊してしまうことがありますから、この職員の心のケアを、かなり丁寧にやっているんです。また、患者さんとそのご家族の心のケアについては無料でやっています。
こういう医療が行えるのも、他の診療科があるからです。ただ、経営という観点で息子は怒るわけです。その気持ちはわかります。
─ それでも河北さんが続ける理由は?
河北 95年前、私の祖父が病院をつくった時、内科と小児科でスタートしたんです。
当時は脱水を伴う小児の感染症は致死率が80%で、来る子供、来る子供、みんな死んでいったそうです。祖父が招いた中島義四郎先生という医師は、こうした状況を受けて、まだ抗生物質ができていない時代に「持続点滴療法」という治療法を導入しました。
病気を治すのは人間の体の免疫の力です。栄養状態がよくないと免疫力が落ちるので、点滴で補給したところ、致死率が20%に下がったのです。この功績で、中島医師は国際小児科学会で特別表彰を受けました。1984年ですから50年後のことです。
こうした医療の原点を忘れず、これからも取り組んでいきたいと思います。