2023-09-27

【新日本科学】「サラリーマンがランチで食べられるウナギ」を目指す世界初の「完全人工養殖ウナギ」づくり

新日本科学が完全人工生産に成功した「シラスウナギ」



不漁が続くシラスウナギ 平坦ではなかった道のり

 ウナギも例外ではない。国際自然保護連合(IUCN)によると、ニホンウナギは14年に「絶滅危惧種」に区分された。数が減少した原因は生育環境の悪化と乱獲と言われている。ウナギの漁獲・生産量も20年は中国が1位で、2位の日本を約15倍近く引き離している。

 さらに鹿児島県を見ても、昨年度、同県内で獲れたシラスウナギは282.3キロ。ピーク時の1970年代には3トンを超える漁獲量があったが、この50年間で4番目の少なさとなった。

 ウナギが日本の食文化の形成に果たしてきた役割は大きい。「土用の丑の日」などでウナギが好きな日本人は、かつては世界の約7割のウナギを消費していると言われていた。

 そんなウナギの人工生産に向けて永田氏が目標としているのが「サラリーマンがランチにラーメンにするか、ウナギにするかと選べる日常」を実現することだ。サラリーマン層でも価格を気にすることなく、ウナギを食べられるようにしたいという永田氏の目標である。

 ウナギの養殖は、これまで稚魚のシラスウナギを捕まえて行われてきたが、近年は思うように捕獲できず、価格の高騰を招いた。新日本科学は授精卵の段階からの完全養殖に挑んできた。ただ、道のりは簡単でなかった。

 永田氏自身も「当社は医療の最先端を研究しており、シラスウナギは簡単に作れるだろうと軽く考えていた」と振り返る。というのも、最初、授精卵からレプトセファルスまでは簡単につくれたが、その後はすべて死んでしまったからだ。

 そもそも卵から孵化したばかりの幼生が何を食べているのか謎に包まれている。もっと言えば、ウナギの生態も未だにはっきり解明されていないのだ。

 ここから永田氏の地道な取り組みが始まる。まず永田氏は社長室でペットとしてウナギを飼育して生態を研究した。同時に鹿児島本店に人工種苗研究施設を設置、4年後には人工海水を用いて世界で初めて地上でのシラスウナギ生産に成功した。

 19年には沖永良部島に研究所を建設、エサの開発を続けると共に飼育環境を整備した。17年に3匹しか生育できなかったシラスウナギを21年には466匹まで増やすことに成功した。

「シラスウナギの基本的な人工養殖にまつわる技術は確立した。幼生の生存率もロットや季節により変動はするが、40%~50%と信じられないほど改善した。あとは幼生を飼育する大型の水槽を大量に整備していくだけ。餅は餅屋。当社が独自にそれをするのではなく、水産会社などと連携し、当社が技術供与するビジネスモデルを考えている」

 中でも永田氏が期待を寄せるのは「ふるさと納税」だ。納税の返礼品として沖永良部島のウナギが定着すれば、同島の地域振興につながるからだ。地元の町おこしや雇用創出、インバウンドだけでなく、水産資源の海外への輸出といった経済効果も期待される。

 新日本科学は、今年度1万匹のシラスウナギの生産を目指し、26年度には年間10万匹を生産する方針だ。


「大欲」の思想

 そんな永田氏は「これも〝大欲〟だ」と話す。大欲とは永田氏の生き方である弘法大師・空海の教え。大きな望み、高い目標を持つという意味だ。自分の欲を出発点にしつつも、周りを思いやる考えに到達し、人々のための欲ともなっていく。

 その気づきを得たことをきっかけに、それまで以上に「大欲を持ち続ける」ことに生きがいを感じるようになった。

 現在、ウナギの養殖には河口で捕まえた天然のシラスウナギが使われている。漁獲量は年によって増減はあるものの、近年は低調が続き、資源の枯渇や価格高騰が懸念されている。

 鹿児島で生まれた技術でウナギの資源を守ると共に、生産量日本一を誇る鹿児島の養鰻業を活性化させることができるか。水産資源をどう確保していくかは日本の食糧安全保障の課題解決にもつながる。それだけに同社の完全養殖が注目される。

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