2023-06-30

自動車版アップル流のものづくり 【フォロフライ】小間裕康の「ファブレス商用EV戦略」

小間裕康・フォロフライ社長

物流大手のSBSグループが最大1万台導入へ─。同社が京都大学発のEV(電気自動車)ベンチャー・フォロフライの商用EVを導入する決め手となったのは価格と性能だ。通常であれば価格がガソリン車の3倍になると言われる中で、同社のEVトラックはガソリン車と変わらない価格を実現している。その背景には米中対立という微妙な国際情勢の中で、独自の開発手法を自動車業界で取り入れるという社長・小間裕康氏の戦略があった。

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東風汽車に生産は委託するが…

 自動車業界に迫る電動化。その中で日本の自動車メーカーの出遅れ感が指摘されるのがEVだ。長年にわたって積み上げてきた擦り合わせ技術が求められるエンジンをはじめ、部品点数が約3万点と言われるガソリン車とは異なり、EVはモーター、電池、PCU(電力を適切に制御する装置)の3種さえあれば、異業種企業でも参入の余地が生まれる。EVが自動車産業の構図を塗り替えると指摘される所以だ。

 それを体現しているのが京都大学発の商用EVベンチャー・フォロフライを率いる社長の小間裕康氏だ。同社はホンダが中国で合弁会社を設立している東風汽車グループと共同で、既存の車体をベースにしたEV商用車を開発している。日本国内で物流会社などのニーズの高いラストワンマイルに特化した1トン車両の小型EVトラックだ。

 フォロフライ自身は工場などの生産設備を持たず、車両の設計・開発に専念する「ファブレスメーカー」だ。米アップルがスマートフォンの生産を、任天堂がゲーム機の生産を台湾企業に任せるのと同じ仕組みだ。米中対立という微妙な国際情勢が続く中、中国企業とどんな距離感でものづくりを進めるのか。

「全てを中国企業に丸投げしているわけではない」─。こう小間氏は強調する。「一般的なファブレスメーカーは輸入代理店のような事業形態になることが多いが、当社は顧客のニーズを考慮して企画と開発を行っている」と語った上で続ける。

「ベースの車両は中国メーカーが量産するガソリン車を採用しているが、その車両に対して100項目以上の改良を行い、日本の安全基準に準じた機能を付与し、国内のユーザーが安心して使えるようにしている」。同社のEVは小型EVで唯一、EV物流営業ナンバーを取得。2021年10月には「F1」シリーズのバンを発売開始した。

 なぜEVでも商用車なのか。フォロフライは物流分野でニーズの高いラストワンマイルをターゲットにしている。なぜなら日本の物流会社のニーズに合ったラストワンマイル用のEV商用車がなかったからだ。

 それを象徴しているのが物流大手のSBSグループによる最大1万台のEVトラックの導入だ。他にも鈴与やタカラスタンダードといった企業も導入している。積載量1トンクラスにすることで、普通自動車免許でも乗車可能な車種を用意し、航続距離も他社の150キロメートルの倍となる300キロメートル。中国製バッテリーを採用することで価格上昇を最低限に抑制している。

 前述のバンについては、既に50社ほどの物流業者にサンプル車の提供を実施して今年6月から量産出荷。フォロフライの開発するEVの強みの1つが価格で、通常のEVの価格に比べて3分の1となる約380万円に抑えられている。それができるのはファブレス生産だからだ。

 中国に焦点を当てたのは中国では政府がEVやバッテリーの生産に対し手厚い補助金を出しているからだ。その補助金を得ている工場だと安く生産でき、使う部品も可能な限り「ありものを使う」(同)ことで生産コストを抑制することができる。ただし、安全性にかかわる領域や顧客ニーズを反映させる部分は〝手の内化〟するというわけだ。

 こういった取り組みによりEVの開発スピードを従来の手法と比べて2倍とし、開発コストの削減を図っている。同社はバンに加え、荷台を顧客ニーズによってカスタマイズ可能な平ボディタイプを採用したトラックの開発も進行中。物流会社のこだわりが反映される荷室部分を国内の大手企業と協力して国内で生産していく考えだ。

「荷室の生産を国内に切り替えることで、海外からの輸送費もなくなると同時に、品質の向上や部品の変更なども併せて進め、年間1000台ほどの販売まで育てることができれば、車両本体自体についても、国内生産のメリットが出てくると見ている」と小間氏は話す。

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