創業者の格言「頂上から攻めよ」
─ 廣田さん自身、出張先にシューズを持っていくなど、日々走っているそうですが。
廣田 毎朝5~6キロは走っています。そして出張先の方が通勤時間がない分、時間を確保できるので走りやすいんですよ。毎日走ることが、いい生活リズムになっています。
アシックスでは今、開発したランニングシューズは、私が履いてからでないと販売しないということになっているんです。まだ販売に「ノー」と言ったことはありませんが、履き心地などについてコメントを出しています。
最近では、少し踵の部分に違和感があったので、測ってもらったら0.5ミリほど高かったんです。それで高さを修正したということがありました。
─ 最初のユーザーということで重要な役割ですね。
廣田 そう思っています。また、今の我々の開発の原動力になっている屈辱的な事が21年1月に起きたんです。それが箱根駅伝の出場選手で、当社のシューズを履いた選手がゼロだったという出来事です。当時、競合他社の厚底シューズが席巻しました。
私が入社した18年頃から「来るな」と見ており、我々もプロ仕様のシューズの開発を20年から始めていたんです。これは社長直轄で「Cプロジェクト」と名付けました。
─ この「C」には、どういう意味を込めましたか。
廣田 Cはアシックス創業者の鬼塚喜八郎の「頂上から攻めよ」という格言、そして「頂上作戦」から取りました。創業者は頂上、つまりトップレベルの選手のニーズを細かく汲み取って、製品を開発していたんです。
このCプロジェクトから生まれたのが、新たなシューズ「METASPEED(メタスピード)」シリーズです。20年開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックは残念ながらコロナ禍で1年延期になりましたが、結果的に我々のシューズは間に合いました。
我々のシューズは、トライアスロンで男女共に金メダリストが着用した他、男子マラソンでは11人の選手が着用して最高5位入賞でした。世界のライバルに追いつくところまでは、まだ行きませんが、ある程度のところまでポジションを戻すことができたんです。
─ 手応えがあるところまで来たと。
廣田 ええ。とにかく「トップになろう」と掛け声をかけてきました。2025年までに、ランナーが優れたパフォーマンスを発揮できるように機能性を持たせたランニングシューズを展開するカテゴリー「パフォーマンスランニング」の市場で世界シェア1位を目指すと宣言し、号令をかけています。社内のメンバーも1位になろうという思いを持ち、頑張ってくれています。
─ 厚底シューズもそうですが、開発競争は激しいですね。
廣田 長距離を走るためには、足の負担を少なくしなければならず、シューズは軽くないといけません。そのため、従来の常識は薄底でした。
ところが、厚底にしても重さが変わらないどころか、むしろ軽いシューズができたというのが大革命だったんです。今は、靴底の材料開発、イノベーション競争が激化しています。