2023-08-03

明治安田生命社長・永島英器の『生保の使命』論 「デジタルを活用しながら最後は『人』」

永島英器・明治安田生命保険社長




日本の金利動向をどう見ているか

 欧米、特に米国では急速に進んだインフレを受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)は一気に金利引き上げを進めた。その副作用でシリコンバレーバンク(SVB)を始めとした中堅銀行が破綻するなど、まだ先行き不透明感は拭えない。

 一方、日本では日本銀行総裁に植田和男氏が就任以降、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)やマイナス金利といった、前総裁の黒田東彦氏時代に導入された政策の見直しを期待する声が強いが、6月の会合までは不動の姿勢。7月の決定会合ではついにYCCの修正に動いた。

 欧米の金利はもちろんのこと、円金利の動向は、生命保険会社の資産運用にも大きく影響するが、今後をどう見ているのか。

 永島氏は「少し前までは、急激な円金利の引き上げを想定しながら社内でプロジェクトを組んでいたが、日銀新総裁のスタンスが予想以上に慎重なスタンスであり、時期としては後ずさりしているのだろうと思う」としながら「やはり金利の正常化は必ず起こるし、あとは時期の問題。金融緩和には功罪がある」と話す。

 金利が付く状態が正常だという認識。日本では長きにわたって低金利環境が続き、明治安田の貯蓄性商品もドル建てが中心となってきた。

 これが今後、どこかの段階で円金利が正常化すれば、円建ての年金などの貯蓄性商品を顧客に勧められる環境となる。

 同時に、これまでドル建て商品を販売する中で感じたことがある。それは「多くのお客様が日本の将来に不安を持っており、自分の金融資産としてドル建てを持っていないことに不安を感じているという方が増えていると実感した」ということ。

 日本の個人金融資産は約2000兆円、そのうち現金・預金は約1100兆円で、まだ「貯蓄から投資へ」が進んでいないことは、よく知られている。

 それに加えて、投資や貯蓄性の保険を購入している人は永島氏の言葉にあるように、自らの資産を金利が付くドル建てにしていこうという考えが強い。

「我々の商品としては、円建て商品が復活したとしても、ドル建て商品は主力であり続けると思うし、2000兆円の個人金融資産が徐々にドルに流れていく傾向にあることや、人口減少なども考えると、一時的に円高になることはあっても、長期的に見たら円安基調が強い環境になると思う」

 こうした環境下、岸田政権は「資産所得倍増プラン」を打ち出した。足元で株価は一進一退だが、将来不安などもあって、これまで以上に資産形成への関心は高まっている。

 明治安田も、資産形成の受け皿となることが期待されているが、永島氏は特に若年層に目線を向ける。「若い人が若い時から資産形成に関心を持つというのは大事なことだと思う。それに沿った商品を提供したい。一生懸命注力したいテーマ」

 近年、明治安田が販売している貯蓄型商品で売れているのが16年から販売を開始した「じぶんの積立」。同社が若年層などをターゲットに開発した「かんたん保険シリーズ ライト!」のうちの1つ。

 積立期間は5年、保険期間は10年で、月々5000円から積立ができ、仮に途中で解約することになっても100%以上の解約返戻金がもらえる。このわかりやすさが若年層に受けた。

 さらに今、既存の商品開発・契約管理システムから切り離し、パブリッククラウド上に新たな基幹システム「セカンドライン」を新設。このシステムによって手続きの電子化、ペーパーレス化が可能になり、顧客の利便性が向上するとともに、明治安田としてはコスト削減、CO2削減につながる。

 このシステムは商品開発の上では「第2製造ライン」となる。「システムをクラウド型にしてコストを削減することにより、低廉な手数料にするというコンセプト」と永島氏。

 この第2製造ラインで開発した商品は「ecoシリーズ」と名付けた。第1弾として23年4月に「外貨建・エブリバディプラス(運用重視タイプ)」という銀行窓販商品の発売を開始。

 既存システムより柔軟な開発が可能になるため、より機動性を高めた商品開発が進む可能性がある。「これからいろんなバリエーションの商品を出していきたいと思っている」と永島氏。

 24年からの「新NISA」を控え、証券会社、銀行、他の生命保険会社も、若年層を含む資産形成ニーズを捉えようと躍起。明治安田は第2製造ラインで、顧客の資産形成ニーズを的確に捉えた商品を、素早く世に送り出すことができるかが問われる。

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