2023-06-11

「まだまだ鉄道事業の成長の余地はある!」池袋―豊島園駅間から始まる後藤高志の【西武鉄道】改革

ラッピング列車「スタジオツアー東京 エクスプレス」の出発式には東京都都知事の小池百合子氏(右から2人目)も参加(右端が西武HD会長兼CEOの後藤高志氏)



駅舎や電車に工夫を凝らす

 ハリポタファンを少しでも獲得したい西武鉄道はスタジオツアーの開業に合わせて駅や電車に投資を実施した。最寄り駅となる豊島園駅をリニューアル。ハリポタの作中に登場する駅をイメージし、赤を基調とした色合いに統一。一方で、としまえんの歴史を感じさせるため、園内で使われていたベンチや電話ボックスなどをオブジェとして飾るという工夫も施した。

 さらに、ハリポタの登場人物のラッピング電車を走らせ、拠点駅でもある池袋駅のホームもリニューアル工事。映画に出てくる駅を彷彿とさせた佇まいにした。ワーナーから寄贈された時計も飾られているほどだ。池袋駅から豊島園駅までの間に映画の世界に浸れることで電車に乗ること自体を楽しむ演出だ。

 後藤氏は「個人的なイメージでは、年間200万人以上の来場者を見込んでいる。コアなファンも多いハリー・ポッターの施設となれば、その中でもインバウンドの比率は高くなると期待している」と強調する。

 西武グループはコロナ禍で各事業が大きなダメージを受けた。プリンスホテルなどの所有資産を売却するなど、財務体質の健全化に努めた。コロナが落ち着き、23年3月期通期決算では3年ぶりに鉄道などの都市交通・沿線事業が黒字化したが、同事業を巡る環境は一変した。

 リモートワークが一定程度普及したことなどを背景に、鉄道の定期券の収入が伸び悩むことが分かってきたからだ。実際、同時期の旅客運輸収入のうち定期は前年比3.5%の1桁増に対し、定期券利用以外の定期外は16.1%と2桁増。インバウンドが増えれば、割引率の大きい定期券収入と違って単価の高い定期外の収入増が見込まれる。


リニューアルした豊島園駅

 大手民鉄幹部は「今後は定期外の利用者をどこまで増やせるかが勝負だ」と語る。その点、西武鉄道は池袋から豊島園という短距離ではあるが、世界中から訪れるハリポタファンが利用すれば運賃収入につなげられる。

 しかも同社は沿線に様々なスポットがある。自然豊かな秩父、歴史を感じさせる川越、アニメの『ムーミン』を題材にしたテーマパークがある飯能、西武園ゆうえんち、西武ライオンズの野球場、そして大規模商業施設の開業も迫る所沢……。

 西武HDの売上高のうち都市交通・沿線事業が占める比率は約3割。鉄道の比率が低いという構造は東急(約2割)などと同じだが、沿線人口の減少に歯止めをかける取り組みは必須だ。

 その点、長距離で郊外からターミナル駅までのビジネスマンの移動に依存せず、短・中距離でありながらも継続したエンターテインメントに絡む移動需要を掘り起こせることができれば安定事業でもある鉄道事業の基盤は強くなる。それができれば、「線路を沿線から外すことができない」(同)と言われる鉄道会社の既存資源の活用策となる。

 もちろん、西武HDのみならず、東急電鉄や小田急電鉄なども沿線に目玉スポットをつくろうと躍起だ。その中でハリポタというコンテンツが持つストーリー性を鉄道と絡ませて沿線全体に人々を惹きつけられ続けるか。西武グループの知恵と行動力の真価はこれから問われる。

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