2023-06-19

辻慎吾・森ビル社長「国際都市として東京にはポテンシャルがある! 人口減の中で都市間競争に勝つ街づくりを」

辻慎吾・森ビル社長




2.4ヘクタールを「緑」に

 ─ 23年秋には開発を進めてきた「麻布台ヒルズ」が竣工しますね。約300人の地権者と共に進めてきた街づくりですが、改めてこの街への思いを聞かせて下さい。

 辻 この街のコンセプトは「モダンアーバンビレッジ」、「グリーン&ウェルネス」ですが、街づくりの基本的な考え方に「グリーン」や「ウェルネス」を置いている街はないんです。

 グリーンでは8ヘクタールの敷地に2.4ヘクタールの緑をつくっていますが、大きな公園をつくるようなものです。わかりやすく言うと、東京・丸の内の1街区が1~1.5ヘクタールですから、それよりも広い。

 また、これからの街には豊かな健康が重要になるということでウェルネスを掲げました。これらはコロナ前につくったコンセプトですが、コロナ禍と今の環境問題を受けて、結果的に最先端のテーマとなりました。

 これらは人々が生きていく、生活していくことを都市がサポートする時に、最も大事な部分だと考えたのです。

 ─ 六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズともまた違うテーマを持たせたと。

 辻 六本木ヒルズは「文化都心」です。もちろん屋上緑化など緑も取り入れていましたが、打ち出すテーマとして、都市に文化がないと世界から人が集まらないという考えがありました。特に外国人には、その感覚が強い。森美術館を20年間運営し、他にも多くの文化イベントを開催してきたんです。

「アークヒルズ」にはサントリーホールがあり、六本木ヒルズには森美術館がある。こうしたことで、森ビルは文化に対して取り組んでいるというご評価を得ることができました。

 虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズにも文化施設はあり、それは継続していますが、麻布台ヒルズでは、最も大事な「グリーン」

「ウェルネス」をきちんと打ち出そうということで、メインのコンセプトにしました。

 ─ 2.4ヘクタールを緑にするというは大胆ですね。

 辻 麻布台ヒルズで最も高い複合ビルを約330メートルの高さにしたのは、下のスペースを緑のために開けたいからです。それが森稔が提唱した「ヴァーティカル・ガーデンシティ」(立体緑園都市)です。

 また、我々は住宅をつくり続けてきたことで、人々の生活に関するノウハウも蓄積しています。麻布台と虎ノ門で、今まで森ビルがつくってきた住宅と同じボリュームに相当する住宅をつくりました。

 外国人向けも含め、都心の高級住宅のマーケットが十分にあるのかについては議論があり、一つのチャレンジでしたが、実際にマーケットはありました。

 ─ 麻布台ヒルズにはインターナショナルスクールが入るのも特徴ですね。

 辻 インターナショナルスクールには校舎に加え運動場や体育館も必要ですから、8ヘクタールといった大規模な開発でなければ入れることができません。

 東京の弱点の1つは、都心部からインターナショナルスクールへの距離が遠いことだと言われます。それを外国人が最も多く住んでいる港区の真ん中に持ってくるというのは、東京にとっても大きなことだと考えています。

 ─ 麻布台ヒルズは約300人の権利者と35年にわたって取り組んできた再開発ですね。様々な利害が錯綜する中、続けさせたものは何ですか。

 辻 諦めるということを考えていないということだと思います。「森ビルさんは失敗しませんね」とよく言われますが、実は失敗は数多くしています。しかし、成功したものしか見えていないんです。我々はやめない、諦めない。諦めなければ、全て出来上がってきます。

 地元の方々と共同事業でやっており、その方々は我々を信じてくれています。その思いを裏切らないということです。

 街が出来上がって20年、50年、100年と、その都市に残っていきます。多くの人が使う場になっていきますが、その社会的責任がありますから、必要とされるものをつくりたいという想いがあります。

 そして、面白い街をつくりたいという想いは森稔の時代から変わりません。社員も、そういう想いを持った人間が集まっているんです。

 ─ 建物だけでなく、目に見えない資産をつくる仕事とも言えそうですね。

 辻 そうかもしれません。新しい街ができていくと、エリアの姿が変わり、エリア同士がつながっていきます。

 アークヒルズだけだったところに六本木ヒルズができ、虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズというコンセプトの違うヒルズができて、それを足し合わせることでエリアに経済圏・文化圏ができている。

 ホテルも、六本木ヒルズにはグランドハイアット、虎ノ門ヒルズ森タワーにはアンダーズがあり、虎ノ門ヒルズステーションタワーにはハイアット系のホテル虎ノ門ヒルズ、そして麻布台ヒルズにはアマン系のジャヌ東京とバラエティに富んだホテルが入ります。

 住宅も、麻布台であれば緑の中に住みたい人が集まるでしょうし、文化施設や商業施設が充実している場所に住みたいという人は六本木を選ぶでしょうし、ビジネス中心の虎ノ門に住みたい人もいるでしょう。特徴ある住宅が凝縮されていますから、エリアとして強くなります。

 しかも環状2号線が開通したことで、例えば虎ノ門から羽田空港まで車で18分くらいで行くことができるようになるなど、利便性が向上しました。これも街の強さにつながります。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事