2023-05-09

【値上げできない中小企業の現実】松久グループ(東京商工会議所顧問)・神谷一雄代表に直撃!

神谷一雄・松久グループ代表(東京商工会議所顧問)



 ─ 中小企業の経営者を奮い立たせた出来事だったのですね。神谷さんはエイズ問題にも積極的に取り組みましたね。

 神谷 ええ。87年に東商会頭に就いた石川六郎さん(当時、鹿島建設会長)と一緒に取り組んだ政策です。エイズは81年に米国で初めて感染者が報告されて以降、世界中がエイズに震撼し始めていました。日本でも85年に感染者が見つかり、パニックの様相を呈していました。

 そこで私はまずは若い人たちに正確な知識を普及させ、しっかり予防させることを最優先の取り組みとして東商が行うべきだと石川さんに提言したのです。石川さんからは「よし、やろう。神谷さん、座長をやってくれないか?」と言われました。

 ─ 当時、内容的に誰もやりたがらないテーマでしたね。

 神谷 そうです。石川さんの鶴の一声で東商に「エイズ問題懇談会」が設置され、私が座長になりました。でも当初は他の議員から「これは東商の扱う議題ではない」といった反対の声もありましたね。それでも石川さんは、エイズ問題は経済問題にも直結すると考えたのです。

 要は若い人たちがどんどん海外に出て行って活動をしている。その仕事での駐在先や出張先で、いろいろな人に接触する。仕事をして病気にかからないためにも予防知識を持たなければ企業も若くて優秀な人材を失ってしまうことになるというわけです。

 私もエイズを一から勉強し、米国の視察も行いました。85年にはエイズ問題に積極的に取り組んでた米国人女優のエリザベス・テイラーさんと共催して東京でエイズのチャリティ晩餐会も開催しました。そういった草の根の活動を通じて社会のエイズに対する関心が高まりました。

 ─ 他の経済人が関与しないテーマにも取り組んだのですね。中小企業の支援策としては、思い出に残る取り組みとは?

 神谷 事業承継税制があります。事業承継税制とは中小企業の株式やその他の事業用資産が世代間で承継される際に、大きな税負担を伴うことがないように相続税や贈与税の廃止を図って中小企業の事業存続をバックアップするというものです。

 経済産業省の中小企業庁が財務省に折衝していたのですが、財務省からすれば「親からもらった財産を道楽で使うケースが起こり得る。また、ゼロから起業する人に対し、親から承継した人を特別に税制優遇することは不平等だ」というわけです。

 ─ どう折り合いをつけたのですか。

 神谷 これは政治決着を図るしかありませんでした。そこで、私は公明党の太田昭宏さんなどにも働きかけました。太田さんは中小企業の振興に力を入れており、事業承継税制を支持していたからです。太田さんにもそのメリットを訴えてきました。

 事業承継という形で親から譲り受けた財産を2代目がベンチャー企業への投資や新しい技術開発への投資に振り向けたりすれば、新しい産業が出てくることになります。それが日本の生きる糧になるはずです。

 一方で、もしそこで税金をかけてしまえば、税金を払うためにせっかく親から受け継いだ建物や土地、財産を売ってしまうことになりかねません。そうすれば中小企業が沈滞しかねない。そうしないためにも事業用資産の相続税をゼロにすることが重要であり、それが事業承継の大事なポイントになったのです。

 太田さんはその後、公明党代表となり、事業承継税制の実現に向けて動いてくれました。2008年の麻生太郎内閣時に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が制定され、翌年には同法に基づき相続税の納税猶予制度と贈与税の納税猶予制度が始まったという経緯です。


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