2023-05-09

【値上げできない中小企業の現実】松久グループ(東京商工会議所顧問)・神谷一雄代表に直撃!

神谷一雄・松久グループ代表(東京商工会議所顧問)



 ─ 中小企業にとっても正念場を迎えていると言えますね。さて約55年間、東商の議員を務めてきた神谷さんにとって印象深い取り組みは何でしたか。

 神谷 何といっても1995年に行われた東商120周年記念式典です。東商は日本資本主義の産みの親と言われた渋沢栄一らの手によって設立され、明治以降の日本の近代化や経済発展に大きな役割を果たしてきました。その記念すべき式典に当時の天皇皇后両陛下のご臨席を賜ることができたのです。

 私はその下準備で動きました。元首相の中曽根康弘さん(故人)に120周年式典の意義を説明し、経済活性化のためには経済人が力を合わせていく必要があると伝えました。そのためにも天皇皇后両陛下のご臨席が何よりも重要だということも伝えたのです。

 ─ 中曽根さんはどのような反応をしたのですか。

 神谷 中曽根さんは「分かった」と言ってくれまして当時の宮内庁長官の藤森昭一さんに電話をしてくれました。「今から神谷が相談しに行く。彼の要請を聞いてやって欲しい」と。

 藤森さんと面会した私は「東商の120周年式典を行いたいのですが、是非ともこの記念すべき式典に天皇皇后両陛下にご臨席を賜れないでしょうか」と。それを聞いた藤森さんは「事情は分かりましたが、商工会議所の式典に天皇陛下がご臨席したことは一度もありません。渋沢さんの時代でさえ、明治天皇も大正天皇もご臨席になっていません」という返事でした。

 ─ そう言われた神谷さんは、どう返したのですか。

 神谷 切々と説得を続けましたね。「東商は中小企業の経営者約10万人の会員で成り立っています。従業員や家族を含めれば何百万人もの人たち含まれています。雇用の面や大企業をはじめとした取引先との関係で日本の産業界は成り立っている。経済の根底をどれだけ中小企業が担っているか。天皇皇后両陛下にご臨席いただければ、どれだけの中小企業の経営者たちが励まされるか」と。

 私は断られて当たり前の気持ちで面会に臨んでいました。ですから言いたいこともしっかり言わせていただいた。藤森さんも「神谷さんは、物事をはっきり言いますね」と苦笑いしていましたね。それでも藤森さんは関係各所を説得するために動いてくださいました。

 結果として95年3月4日の記念式典には天皇皇后両陛下がご臨席してくださいました。天皇皇后両陛下がお越しになるということで、10万人の東商会員のうち約2万8000人の中小企業の経営者たちが出席し、天皇皇后両陛下から励ましのお言葉をいただきました。会員も大変喜び、式典は盛況でした。


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