FRBに打つ手はあるか?
─ 今回の危機の端緒となった米国で、FRBの打つ手はあるのですか。
中前 私はないと思います。今回の問題でFRBは流動性を与える方策を取っています。国債を中心に値下がりをしているわけですが、例えば100円の額面のものが70円になっていても、額面100円に対してお金を貸し付けるということで、損切りをしないでもいい手段を与えることでショックを和らげようとしています。しかし、これは一時的な手段です。
先程申し上げたように、他に預金金利よりも高いものがあれば、流動性を与える方策があっても、預金は出ていきます。お金は高い金利に流れますから。
特に米国で問題になっているのは、預金の4割ほどが預金保険の効く25万ドルを超えていることです。最初の米銀2行の破綻では預金を全額保護しましたが、これからは預金保険が効かない部分は助けないと、イエレン財務長官が議会証言していますから、それをそのままにして問題に対応できるのかということがあります。
─ 今後起きる可能性がある破綻では預金を保護しないということですね。
中前 そうです。政治的には、25万ドル以上の部分を保護するのは、金持ちを優遇することになるという批判が出ています。しかも、全体の預金の4割がそういう状態。今、流出している預金は主として、その部分です。
流出した預金は、大銀行だけでなく、先程申し上げたMMFにも流れています。これはリーマン・ショックの時に、MMFの半分以上は政府保証が付くようになったのです。それもあって預金が流れている。
預金者としては、身を守るには逃げるしか手がありません。政府保証があって、銀行よりも安全で、しかも利回りが高いとなったら、そちらに行きます。
─ すでに不況局面に入ったと見ていいですか。
中前 私は不況局面に入っていると見ています。入っていないとしても、不況に入る可能性は高まっていますし、むしろ不況は加速するという見方です。
─ 世界経済全体にとってマイナスですね。
中前 非常にマイナスですね。これは米国だけでなく欧州もそうですし、日本も今は何もないように見えていますが、例外ではありません。
─ コロナ禍で経済が厳しい状況に置かれた時に、各国が一斉に金融緩和を行ったわけですが、その時から予測できていた事態だと。
中前 それ以前から、各国中央銀行はやり過ぎていました。コロナ禍の前から警戒が必要だと言われていましたが、コロナ禍で短期的に景気が非常に悪化しましたから、2010年代の超金融緩和バブルが潰れかけていたところに、もう一度バブルをつくったのです。
─ その反動が今、始まろうとしている。
中前 そうです。コロナバブルの反動に加え、リーマン・ショック後に作った問題とも重なってきています。長期的な超金融緩和、短期的なバブル的緩和、その両方が潰れかけています。