これは証券会社とグループ内の銀行等との間で、顧客の非公開情報の共有を制限する「ファイヤーウォール規制」の緩和を受けた動きでもある。
ただ、小林氏は社内に「規制が緩和されたとはいえ、お客様の大事な情報を自由に使っていいというわけではない。どれだけ大事な情報かを考えながら、お客様のニーズに応える必要がある」と訴える。
法人向けには22年4月に「ホールセールカバレッジ部」を新設。この部署に三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、そして三菱UFJMS証券から専門人材を集めた。業態を超えてサービスを提供することで、顧客ニーズに応えていく方針。
個人向けも同様に銀・信・証が連携して取り組む。例えば、個人の資産の中では「不動産」が大きなポジションを占めるが、銀行は住宅ローン、信託は仲介、証券は証券化など、様々なアプローチができる。そこで3社で「ウェルスマネジメントデジタルプラットフォーム」を構築し、連携を深めている。
また、日本の課題としてスタートアップ企業がなかなか育たないというものがある。ここにもモルガン・スタンレーの知見を生かそうとしている。19年に投資銀行部門の中に「SAT」(Startup Acceleration Team)を設置。投資銀行のノウハウをスタートアップに活用してもらうための取り組みを進める。
スタートアップの「出口」、目標としては上場が思い浮かぶが、中には資金調達がきちんとできれば、急いで上場せずに事業を育てたいというニーズや、未上場のままでM&Aによって他社と統合して、さらなる成長を目指すというケースもある。こうしたニーズには、まさに投資銀行のノウハウが生きる。
小林氏には「上場だけでなく、多様な資金調達の手段がなければ、ユニコーン企業も生まれないのではないか」という問題意識がある。
支援している1社にパワーエックス(伊藤正裕社長)がある。同社は21年3月設立で、世界初の「電気運搬船」や「大型電池」の開発を手掛けるスタートアップ企業。グーグルや日産自動車、三井物産などの出身者が集っていることでも知られる。「日本のGX(グリーントランスフォーメーション)に資する会社をサポートできているのは喜ばしいこと」と話す。こうした事例を次々に生み出すことができるかが問われる。