2023-03-07

賃上げ、金融環境の激変下をどう生き抜く─ 問われる経営者の覚悟

30年間、給与は横ばいだった

「このコロナ禍で、事業構造改革を進めてきて、成果が出始めた。従業員には長い間、我慢してもらってきたし、賃上げを実行していきたい」と東京・丸の内の大企業トップは語る。

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 日本経済は長らくデフレか、それに近い状態が続き、先行き不透明感がある中で、「まず雇用を」と雇用を守ることに注力し、賃上げによる経営コスト増を避けてきた。

 そうした、〝我慢の空気〟を変えようと、今、産業界に賃上げの機運が高まる。

 しかし、全企業数の9割を占める中小企業の大半は「現状で賃上げは難しい」という所も少なくない。この二極分化をどう克服していくか─。

 21世紀が始まって21年余、バブル経済崩壊から30年余が経つ今、「このままでは日本は停滞が続くというか、没落する」という危機感が強まっている。

〝失われた30年〟が続いているのはなぜか。2010年代にアベノミクスが登場し、安倍晋三政権の経済政策の背景の中で黒田東彦・日本銀行総裁の「異次元金融緩和」が打ち出されて10年。

 アベノミクスに対する評価は分かれるが、円安・株価上昇は実現したものの、肝心の成長がまだ得られないままできている。いわゆる「3本の矢」の中で第1の矢の金融、第2の矢の財政は放たれてきたが、第3の矢の成長がまだ不十分なままだ。

 今、産業界には賃上げで物価上昇の痛みを少しでもカバーし、消費刺激等による経済再生につなごうという動きが高まっている。この動きをどう見るか?

 この30年を振り返ると、日本はなかなかデフレから脱却できず、したがって従業員に対する賃金、つまり人件費を上げられなかった。この間、経営のグローバル化が進み、株主への配当、そして役員報酬は上昇したものの、肝心の従業員の賃金上昇は伴わなかった。それはなぜなのか?

 一言でいえば、日本の産業界が進取の気性を失ったからではないのか。経営の方程式でいえば、労働生産性を上げるのは重要なキーポイント。その労働生産性は、分子に付加価値、分母に労働投入量で求められる。

「これまでの日本は労働投入をいかに低くするかということに熱心に取り組んできて、労働に対する報酬、つまり賃金を上げない状況で推移してきた」と語るのは、長らく産業政策づくりに関わってきた福川伸次氏(元通産事務次官、現地球産業文化研究所顧問)である。

 労働生産性を引き上げるためには分子の付加価値を高めなければいけない。つまりは「価値の高いものをつくれば、高い値段で売れる」(福川氏)という努力を怠ってきた面がある。

 とにかく日本は他者との競争を生き抜くために、とにかく安くつくって安く売るということに腐心してきた。

 これを付加価値の高いものをつくり、消費者が認めるならば、それに見合う高い価格で売るということへの転換である。

 今は資源・エネルギー価格の上昇に見られるように、原材料価格上昇に伴う製品価格の引き上げが進む。期せずして物価上昇が続くが、本来生産性の伴う商品価格の改定でなければならない。

 福川氏は「日本は未だに薄利多売。これまでとは違う売り方ができる企業体質にしていく必要がある」と訴える。

 企業の『空気』を変えるという命題である。


日本の存在感低下の今…

 先の大戦で敗戦国となった日本。焼け跡の中から立ち上がり、政治、経済、社会のリーダーと国民が一体となって頑張り、努力し、敗戦から23年後の1968年(昭和43年)、日本は当時の西ドイツ(現ドイツ)を抜いて、GDP(国内総生産、当時はGNP=国民総生産)で2位に成長。

 以後、米国に次ぐ経済大国としての道を歩き続けた。それからほどなく、1971年(昭和46年)に「ニクソン・ショック」、1973年(昭和48年)の第1次石油危機、続けて79年の第2次石油危機が起き、日本も翻弄された。しかし、この危機も踏ん張り、円高、資源・エネルギー危機を乗り切った。

 高度成長に慣れ切った日本に、米国から矢継ぎ早の注文が飛んでくる。1985年(昭和60年)のプラザ合意で為替調整に追い込まれ、円高基調に転ずる。そして80年代後半はバブル経済への突入である。

 その数年後の1990年代始め、バブル経済が崩壊、続けて90年代末には金融危機に見舞われ、日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)、山一證券など大手金融機関が倒産に追い込まれる。以来、日本の停滞が続く。

 停滞の原因は何か。先述の福川氏は1980年代の経済人の「驕り」が停滞の大きな一因だと語り、経済人の奮闘を促す。

 このコロナ禍、ウクライナ危機の中で経済人の間で緊張感が高まる。その中で増収増益、史上最高益を上げる経営者もいる。そうした経営トップには、危機の中を乗り切るという覚悟を持つ人が少なくない。

「会社はいつでも潰れるもの。潰れないために経営者がいる」と語るのは、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏。「品質のいいものを世界の消費者に届ける」という経営理念で世界に〝ユニクロ〟を提供し続ける柳井氏。

『正しい経営』を志向してきた柳井氏は語る。「社会の公器だと思ってやった企業だけが永続しています。そこに自己中心みたいな人が入ると駄目になる」と危機下を生き抜く企業の共通性を語り、何事も「できない」と考えるのではなく、「こうやったらできる」という方向で行動していく時と強調する。

 経営者の覚悟が問われる時である。

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