2023-01-23

【なぜ今リカレント教育なのか?】第一生命ホールディングス会長・渡邉光一郎の「産・学・官連携で人材づくりを」

渡邉光一郎・第一生命ホールディングス会長 (経団連副会長)



産業と大学の連携へ『産学協議会』を設置


 ただ、教育は時間のかかる仕事。短兵急にはコトは進まないし、成果が出てくるまでには相当な時間がかかる。

「ええ、教育って、先述のゆとりの影響も10年先、30年先に出ます。ですから、今の改革も10年かかる。学習指導要領が10年単位なんですね。教育振興基本計画は5年単位なんで、教育の変革には時間がかかる。今の非正規の問題にしても、ゆとり世代とか、就職困難期の就職氷河期世代のように今になって影響が出ています」

 教育は社会のあり方、引いては『国のカタチ』づくりに直結する。

 こうした歴史的経過を踏まえて、渡邉氏はソサエティ5.0フォーSDGsの教育改革、産業構造変革について、「これからの時代を考えれば未来志向型で、産学が一緒になってやっていくという構図だと思うんです」と語る。

 経団連は、中西宏明・前会長時代に『産学協議会』を設置。中西氏(故人)は日立製作所の再生を成し遂げた後、経団連会長に就任(2018)。ソサエティ5.0を生き抜く人材教育に熱心だった中西氏。同氏は、産業界が求める人材像を大学側に伝え、また国公私立の大学側は雇用面で産業界に何を要望するのかを率直に意見交換しようということで、『産学協議会』を設置した。

 中西氏は残念ながら2021年病魔に倒れ、その遺志は現在の十倉雅和会長に受け継がれている。十倉氏は『産学協議会』の共同座長を大学側の代表と共に務め、協議を重ねている。

気になる若者の〝士気低下〟


 なぜ、GAFAのような存在が日本には生まれないのか? こうした思いや問題意識を抱える経済人や大学関係者は少なくない。

 米グーグルやアップル、フェイスブック(現メタ)、アマゾンなどのように、IoTやAIを駆使し、新しい産業を興すスタートアップ。社会の活性化を促すスタートアップをどう生み出し、また支援していくかはまさに国家的課題。

 本来、国富を生み出す産業界と、その産業界に人材を送り出す大学側は相協力して人材を創り出す間柄のはずだが、これまでウマく噛み合っていなかったのは事実。

 有力な新進企業が数多く誕生する米国では博士号取得者が企業にもどしどし入るし、自ら業を興していく。日本の企業はなかなか博士号取得者を入れてこなかったし、むしろ敬遠ぎみの面もある。学部卒を入れて、自社内で鍛え、育て上げるという即戦力育成のやり方であった。

 これは、人材育成という意味で、産業、大学の双方に責任がある。共通の目標に向かって、産業と大学の双方が手を携えることが大事ということである。

 もう1つ、最近の学生の〝士気低下〟ということにどう対応していくかという課題。

 現に、日本人学生の間で海外留学への熱意が激減していることに危機感を抱く向きは多い。

 ピークには年間12万人の若者が海外留学へ向かったが、今はコロナ禍が加わったとはいえ、約1500人台と激減している。また、アジアなど海外から日本への留学を志望する人たちが減少しているのも気懸りだ。

 昨今の就職状況を聞いていて、某大手商社に内定が決まった学生の母親がその商社幹部を訪ねて、「うちの息子を海外に出さないでください」という〝要望〟を出したという話もあった。

 ウクライナ危機や各地の紛争もあり、海外勤務は危険という思い込みでそうした話が出てくるのかもしれないが、〝リスクを余りにも取らない日本〟になってはいないかという反省課題。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事