2022-10-22

『防衛費増額』の財源に法人増税などが浮上、みずほ証券・上野泰也氏の見方

岸田文雄首相は5月に行われた日米首脳会談でバイデン大統領に対し、「防衛力を抜本的に強化し、防衛費の相当な増額を確保する」とコミットした。防衛費増額の規模や財源が、年末にヤマ場を迎える2023年度予算案編成の大きな焦点になっている。

 時事通信は9月16日、「防衛費財源に法人税=金融所得、たばこ増税も検討~政府・与党議論へ」と報じた。所得税、消費税と並ぶ「基幹3税」の一つである法人税の増税が防衛費増額財源の柱で、金融所得課税、たばこ税の増税もあわせて検討するという。政府・与党内にはほかに、「国防力強化の費用負担の公平性を保つ観点」から所得税や相続税の増税を支持する声があるほか、財源の全額を国債で賄うべきだとの主張も根強い。関係者の利害も絡むため、今回の財源論議は難航が必至とみられている。

 同日の共同通信の報道によると、増税が実現するまでの間は「つなぎ国債」と呼ばれる一種の赤字国債を発行して、当面の資金繰りをつける見込みである。

 この問題では、朝日新聞が9月19日、「『国債頼み』は道を誤る」と題した社説を掲載していた。「防衛装備や人員の増強は継続的な支出を必要とし、一時的な支出の負担を借金で平準化するという理屈は成り立たない」とした。この部分の主張には納得がいく。一度買った装備は時代の流れで陳腐化していく。メンテに加え、入れ替えも当然必要になる。

 その後、時事通信が9月20日、「〔霞が関情報〕防衛力とは何か=財務省」を配信。「防衛力って、防衛費に幾ら使ったかで決まるものではないと思う」「借金して武器を買っても、経済制裁とか他国からちょっと意地悪なことをされるだけで日本は終わってしまう。経済や財政の安定、つまり国力も防衛力を補完する上で重要ではないか」という、匿名の財務省主計局幹部のシニカルなコメントを伝えていた。

 ロシアがウクライナに侵攻して起こったこと、米中関係の悪化など、国際情勢の激変も念頭に置きつつ、筆者の見解をお伝えしたい。国の防衛というのは、国際情勢の厳しい現実に照らして考えれば、日本という国家の存立基盤をなす重要な要素であることは明らか。防衛費は一過性の歳出ではなく、その性格上、どうしても継続的なものであり、便益は世代を越えて(おそらく無意識のうちに)国民全般に広く及んでいくと考えられる。したがって、法人税や所得税、あるいは(政治的にきわめて難しいのだが可能であれば)消費税によって、家計・企業が防衛費を広く負担するという考え方が妥当だろう。

 ただし、「防衛費の増額」イコール「適切な防衛力整備」でないことは、上記の財務省幹部が指摘した通り。軍事専門家など有識者の意見も踏まえた上での、厳格な査定を経ての防衛費増額、それによる真に実効性のある防衛力整備という流れが望まれる。


うえの・やすなり 1963年生まれ。上智大学文学部卒業・法学部学士中退後、86年会計検査院に入庁。富士銀行(現みずほ銀行)に転じ、富士証券を経て、2000年から現職。著書『国家破局カウントダウン』(朝日新聞出版)、『デフレは終わらない』(東洋経済新報社)、『「依存症」の日本経済』(講談社)。

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