2022-06-20

【政界】自信を付け始める岸田首相 財政再建で元首相が神経を尖らせる場面も…

イラスト・山田紳



防衛費は1兆円増?

 新型コロナウイルスの感染状況は大型連休後も落ち着きをみせているものの、楽観はできない。ロシアによるウクライナ侵攻に伴う物価高対策にも引き続き取り組む必要があり、自民党内の積極財政派は勢いづく。

 さらに同党は、現在は国内総生産(GDP)比1%程度の防衛費について、5年以内をめどに2%以上に引き上げるよう政府に求めている。これを強く後押ししてきたのが安倍だ。

 共同通信の5月の世論調査で防衛費を「大幅に増やすべきだ」「ある程度増やすべきだ」は計54・8%に上り、「今のままでいい」の35・8%を上回った。軍備を増強する中国や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に加え、ウクライナ危機が有権者の安全保障への関心を高めたとみられる。

 5月23日に東京・元赤坂の迎賓館で行われた日米首脳会談で、岸田は「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」と米大統領のバイデンに約束した。

 日本政府筋によると、会談で具体的な金額は議論にならなかったようだが、これを伝え聞いた安倍はある会合で「抜本的ということは、おそらく6兆円の後半という意味ではないか」と勝ち誇ったように語った。政府の22年度当初予算で防衛費は約5・4兆円。安倍は年末の来年度予算編成で1兆円を超える増額を視野に入れていることになる。

 自民党にも「国を守るために何が必要か積み上げて議論すべきだ」(前防衛相の河野太郎)という慎重論はある。公明党も「真に必要な予算措置」を主張し、防衛費増額に傾く自民党をけん制する。参院選後の概算要求段階から、さや当ては激しくなりそうだ。

 財政政策だけではない。選挙対策でも党内の意見対立が表面化した。

 参院選の準備段階で野党に先行している自民党だが、山形選挙区(改選数1)では候補者擁立を見送る方針だった。同選挙区で改選を迎えるのは国民民主党の舟山康江。選挙に強い舟山に勝てる候補がなかなか見つからず、与党に接近してきた国民民主党に恩を売る形にして、不戦敗を選択しようとしたのだ。

 しかし、山形は自民党選挙対策委員長の遠藤利明の地元。擁立見送りだけならともかく、舟山を推薦するという奇策まで浮上すると、党内で批判が噴出した。しかも、同党が5月中旬に実施した情勢調査では、候補者未定にもかかわらず、舟山に善戦するとの結果が出たという。

 現時点では、自民党は一部野党の力を借りなければ参院選後の国会運営が難しくなるような状況にはない。国民民主党代表の玉木雄一郎は与党との連携に前のめりだが、それはあくまで生き残りをかけた同党側の事情だ。しかも、玉木の方針には党内に異論もくすぶる。山形選挙区を巡る自民党執行部の当初の対応が弱腰に映るのは無理もなかった。

 安倍や参院幹事長の世耕弘成はもともと見送りに懐疑的で、幹事長の茂木敏充はついに党内の主戦論に抗しきれなくなった。遠藤ははしごを外され、同じ谷垣グループのある議員は「遠藤さんも昔はほかの派閥とうまくやっていたのに、最近は岸田さん一本やりになっている」と他派閥からの風当たりの強さを嘆いた。

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