アナログの世界を豊かにするために
―― 世界では例えば、中国のように国を挙げてデジタル技術を開発している国もあるわけですね。民主主義国家である日本では、中国と同じようなことができないのも事実なんですが、今後のデジタル開発に関してはどのようなスタンスで臨むべきだと考えますか。
平井 日本では2001年にIT基本法が施行され、今回の法案成立で「デジタル社会形成基本法」へ作り替えました。どんな社会を作るかということ、言うならば、デジタル化を進める上での憲法を新たに定めたわけです。
その中で、われわれは誰一人取り残さないということを明文化しています。全ての国民にメリットのあるデジタル化を進めていくということで、例えば、障がいをお持ちの方であったり、高齢者であったり、デジタル機器を使えても、使えなくても、どのような方々であってもデジタルのメリットをきちんと感じてもらえるようにする。
―― 誰もがデジタルの恩恵を受けられる社会づくりということですか。
平井 そうです。誰一人取り残さないようにするなどということは、米国や中国は絶対に言いません。彼らはどちらかというと、ある程度の格差は仕方ない、それでも一部の人たちがデジタル化のメリットを享受し、市場を牽引できるようにしようという考え方です。
ですが、日本は困っている人がいたら助けていこうと。実は慶應義塾大学の村井純教授と一緒に作った『デジ道(どう)』という言葉があるんですが、これは武士道と一緒で、日本では、困っている人は放っておかない、デジタルを活用して、誰一人として取り残されない社会にするんだということです。
―― なるほど。デジタルの道ですね。
平井 皆さんに覚えておいてほしいのは、デジタルは手段であって、目的ではないということです。デジタル化の目的は、われわれが生きている、この空間をより良いものにするということであり、人間をより幸せにするということです。
ですから、矛盾しているかもしれませんが、最終的に目指しているのは、デジタルを意識しないデジタル社会なんですよ。知らない間にデジタル技術によって便利になり、幸せになっていく。これは先ほど申し上げた地方創生もそうですよね。
人間というのはアナログな存在です。デジタルだけではお腹はいっぱいにならないし、幸せにもならない。嬉しいとか、悲しいという感情はアナログの世界ですから、アナログの世界を豊かにするためにデジタルテクノロジーをスマートに賢く使っていく。それがデジタル庁の進むべき方向だと考えています。