2024-03-19

サントリーホールディングス・新浪剛史社長「酒類と飲料を融合した“RTD”で世界一を目指す!」



常に面白そうな道を歩んできた

 ─ 新浪さんの経営者人生を振り返ってみると挑戦の連続だったと言えそうです。

 新浪 私は常に挑戦だが、まさに〝おもろい〟道を選んできました。三菱商事でローソンに行くときも出向で良かったのですが、あえて退職しました。だからこそ改革に立ち向かい、多くの革新的なことができ、大成功に導くことができました。そしてサントリーに。メーカーも初めてでしたし、オーナー企業も初めてでした。でも、まずは挑戦してみようと。そういう人生を歩んできました。

 もちろん、経営者として、舵を取る会社や業界を変えるということは容易なことではありませんでした。しかし、しばらくして、サントリーという会社の〝徳〟というか、その奥にある真の優しさがあることに魅了されました。苦境に陥ったときには必ず助けてくれる。「何をやっているんだ」と突き放すのではなく、本当にありがたいですね。そして佐治会長から私自身にも「言いたいことを言ってこい。正論は大切だ」と発破を掛けられています。

 ─ 経済同友会の取り組みについても、同じスタンスですか。

 新浪 はい。日本のために正論を発信して欲しいと。例えば政策提言は実効性が高いだけでなく、どう実現していくかまで一緒に考えていく必要があります。社会に実装するためには、世の中の人たちが納得するような説得力がなければなりません。

 そうしたメッセージや提言を出していくためには、我々自身がもっと勉強しなければなりません。ですから、同友会の各委員会の委員長は各領域の専門家と呼べる経営者にお願いしました。参加している委員も勉強になり、提言だけでなく、自分の会社の経営にも活かすことができるような活動を続けていれば結果として日本の産業が活性化していきます。社会はもちろん、何より自分たち自身を変えていく。同友会をそういう場にしていきたいと考えています。


共助資本主義で

 ─ その中で新浪さんが強調したいことは何ですか。

 新浪 企業の価値を上げるためには、ぜひ社会起業家との接点を持って下さいと言っています。それができると、国が担う「公助」や自身の力による「自助」だけでない、「共助」の世界を企業の力も使いながら形成でき、私たちの社会をもっと強靭にしていくことができます。

 そうして社会にとってなくてはならない存在になっていくことで、結果として長期的に企業自身も一層のレジリエンス(しなやかな強靭性)を獲得することができるようになるのです。

 そのためには、社会起業家やNPO・NGOといったシビル・ソサエティ(市民社会)の方々と一緒になって社会の課題を解決していくことが大切になります。「公助」だけで社会の課題のすべてを解決できないことは明らかですから。そうした取り組みを続ければ、企業のリスクプレミアムを低減し、結果として企業の価値も上がっていきます。私はこの循環を「共助資本主義」と呼んでいます。

 ─ その言葉は代表幹事就任時から訴えていますね。

 新浪 はい。経済社会は時代と共に変わってきています。同友会もその変化に合わせながら、社会をもっと豊かでもっと良いものにしていくために力を尽くしていく必要があります。

 最も大きなテーマは、日本社会が次に何を目指すかですね。令和の新しい資本主義のモデルが求められています。過去の金融資本主義のように、勝者と敗者が隔絶していくようなシステムでは、豊かで安定した社会を維持することが難しいのは明らかです。昭和や平成とは異なる社会環境にある今こそ、令和の時代のモデルを考えていかなければなりません。


賃上げの機運を醸成するために

 ─ 足下の話も伺います。賃上げが話題になっていてサントリーでも計画していますね。

 新浪 これから労働組合との交渉もありますが、ベアを含めて7%程度を実現していきたい。これは継続的にやりたいし、やれる企業になっていきたいと思っています。それを前提に社員にモチベーションを上げてもらい、生産性を向上させて下さいと。

 そのために、生成AIを活用するなど、新たなチャレンジをいくつも始めています。

 ─ 日本の場合、大企業は賃上げができても中小企業は難しいという声を聞きます。

 新浪 経済三団体連名で「パートナーシップ構築宣言」を推進しているのは、まさにその通りだという認識からです。一昨年、下請け企業からの価格転嫁協議に応じない大企業名を公正取引委員会が公表し、その後もフォローアップが行われています。こうした取り組みをどんどんやるべきだと思います。

 会社の名誉や評判に傷がつかないよう、日本の大手企業が動くことに繋がりますので。本来このような方法は決して良いとは言えませんが、次第に人手不足がより深刻になり、価格転嫁を許諾する世の中になっていくでしょう。

 CPI(消費者物指数)が上がった分は自動的に価格に転嫁できるようにしていくぐらいのことが重要です。当たり前のようにやっていくべきだと考えます。そういう循環を作っていくことで、長く苦しめられたデフレを脱却して、日本経済は成長のエンジンに再点火できると思っています。

 まず、成長を取り戻す。同時に、その再成長の先にどんなモデルを描くかを考える。日本はいま、久々に、そんなわくわくするような挑戦ができるチャンスを迎えているのだと思います。(了)

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