2024-03-04

JR東日本が育てた「TTG」のAI無人決済店舗システムが人手不足下で人気殺到

TTGが手掛ける最新のAI無人決済店舗が品川駅で実証実験を実施した



空きスペースの有効活用で地方創生にも寄与

 そんなTTGとはどんな会社なのか。実は同社はJR東日本からの初のカーブアウト企業(新規事業などを親会社から切り分け、親会社から出資を受けつつ別企業として独立)。JR東日本のコーポレートベンチャーキャピタルであるJR東日本スタートアップと無人決済システムを開発したベンチャー企業・サインポストが50%ずつ出資して設立された。今ではファミリーマートや東芝テックなどからも出資を受けている。

 阿久津氏は「人手不足は鉄道業界でも共通の経営課題」と語る。そもそも阿久津氏自身、2004年にJR東日本入社後、駅ナカコンビニ「NEWDAYS」に配属されて店長を任されたが、そのときに人集めに苦慮した経験がある。17年にJR東日本スタートアップに出向し、サインポストと出会った。

 TTGはJR東日本を出自としているが、システムはJR九州や東急、西武鉄道、近畿日本鉄道、西日本鉄道など他の鉄道会社にも採用されている。「鉄道会社は縄張り意識が強く、会社の垣根を超えるケースは少なかった。しかし、人手不足対応では話は別だ。何もしなければ駅構内が空きスペースばかりになってしまう」と鉄道会社関係者。TTGの仕組みは鉄道会社の駅以外にも工場や学校、オフィスなどにも導入されている。

 さらにTTGは次なる手を打ち始めた。それが〝商品を手に取れる自動販売機〟。この新しいシステムは幅90㌢、奥行60㌢の棚から商品を手に取ってレジに進むと、自動で商品を検知して支払いができるというもの。

 カメラで人の動きや手に取った商品を検知し、レジで商品をスキャンすることなく支払いができるという基本的なシステムはこれまでと同じだ。新システムの特徴はそのサイズ。棚1つを置くだけで売り場ができるのだ。「自販機に類するような小型で使える無人決済店舗。駅や空港、ショッピングセンターの空きスペースで商品を販売することをイメージしている」と阿久津氏は意気込みを語る。

 JR品川駅の改札内にあるスペースでのテストでは、カルビーや靴下メーカーのタビオ、「東京ばな奈」を販売するグレープストーンの3社が協業。各社のユニットが隣接する形で設置されたが、ユニットの前に柵があるだけで大掛かりな工事は不要。また、商品を手に取ると、自動的に「ありがとうございます」という自動音声が流れるため、万引き防止にもつながる。

 これが軌道に乗れば、地方創生にもつなげていけると阿久津氏は話す。「地方の小さな工房や商店が都心で店舗を開こうと思っても販売員を派遣できない。しかし、この仕組みであればそれが可能になる」。更にカメラから取得した利用者の動線分析や棚のセンサーで商品の取得と戻しのデータが分かるビッグデータをマーケティングに生かすデータとしても活用できる。

「自販機以上、コンビニ未満。これがTTGのコンセプト」と阿久津氏は強調する。母体のJR東日本は中長期で鉄道と非鉄道の比率を現在の7対3から5対5にする目標を描くが、無人決済店舗が広がれば小売りの領域の拡大に弾みがつく。

 課題は社会受容性だ。子供やシニアといった層にもどれだけ違和感なく受け入れてもらえるかが勝負になる。人手不足に打ち勝つ仕組みとして根付かせることができれば我々の買い物体験も大きく変わることになる。

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