2024-02-15

NANO MRNA・秋永士朗の「創薬シーズと医療ニーズをつなぐプラットフォーマーに」

秋永士朗・NANO MRNA社長



キーワードは〝分業と協業〟



 同社は1996年にナノキャリアとして設立。2008年に東京証券取引所マザーズ市場(現・東証グロース)に上場するなど、ナノ粒子をつくる独自技術を活用し、新たな抗がん剤の開発を進めてきた。しかし、抗がん剤開発は資金面のネックもあって難航。近年はずっと成長戦略の見直しを続けてきた。

 転機となったのが、2020年に核酸医薬に特化したアキュルナを吸収合併したこと。この時、吸収された側のアキュルナで社長をつとめていたのが秋永氏だった。アキュルナはmRNAなどの核酸(新しい細胞をつくるために不可欠な成分)に特化して創薬を進めてきた会社で、この知見が現在のビジネスモデルへつながっていく。

 秋永氏は22年12月に社長に就任。翌23年から、mRNA創薬に特化したビジネスモデルに転換することを宣言。同年6月から社名を変更し、新たに再出発した。

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 同社がキーワードに据えるのが〝分業と協業〟。非臨床開発(ADDP)やmRNA製造(アルカリス)を担う武田薬品からスピンアウトしたアクセリードホールディングス、製薬企業が求める治療薬の情報を持ち事業開発を担うIPガイア、この3社連携によって医薬品開発体制を構築。新たなビジネスモデルにチャレンジする。

 昨年11月には、花王とmRNA医薬品創薬に向けた共同開発で提携。花王が持つ独自の免疫制御技術を生かして、アレルギー疾患に向けたmRNA医薬品の創薬に取り組んでいる。

「花王から当社をパートナーとして選んでいただいたことの意味は大きい。花王の持つテクノロジーと当社の研究開発力を融合することで、既存の治療法では十分な効果を得られず、アレルギー疾患に悩む人々へ貢献することができれば」(秋永氏)

 現在はアクセリードや東京医科歯科大学の位髙啓史教授と共に、変形膝関節症の治療薬開発が臨床試験開始の準備段階に入っている。日本における有病者数は約2530万人とされ、既存のヒアルロン酸やコンドロイチンなどの対症療法型の治療とは全く異なる医薬品を開発することで、すり減った膝軟骨の再生が期待されている。

「変形膝関節症の中でも約800万から1千万人が有症状患者と言われている。他にも、脳腫瘍の治療薬の開発を推進しており、社会の高齢化が進む中で、開発に取り組む意味は大きい。今後も当社が土台となって、様々なパートナー企業と共にmRNA医薬品の創出を目指し、創薬シーズと医療・開発ニーズをつなぐプラットフォーマーになりたい」と語る秋永氏。

 mRNA医薬品の開発は世界中でまだ始まったばかり。大手製薬企業とは違った形で、ニッチなベンチャー企業の大きな挑戦が始まっている。

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