2024-01-08

【2024年をどう占うか?】答える人 日本郵船会長・長澤仁志

長澤仁志・日本郵船会長

環境技術で日本の海事クラスターが復活するチャンス!

 ─ 新しい考え方による新領域の取り込みですね。世界経済に直結する海運業から日本郵船会長の長澤仁志さんに世界の荷動きを占ってもらいます。

 長澤 皆さんの見方とは異なりますが、どちらかというと、あまり明るくないのではないかと。物価高によるインフレ抑制のため、世界各国で金利が上がり、消費が少し落ちています。

 太平洋航路で一番大きなコンテナ船の荷物が家具なのですが、その物量が落ちています。自動車船もコロナ禍で膨らんだバックオーダーが落ち着き、一時の勢いはなくなりました。ばら積み船も世界の鉄鉱石の荷動きの約3分の2を占める中国向けが落ちています。

 すごい暗いとは言いませんが、23年よりも若干減ると見た方が良いと思っています。ただし、今回のイスラエル、パレスチナ紛争の影響は長引けば相当出てくると思います。

 ─ 海運の人手不足とは。

 長澤 外航海運は外国人船員を活用していますので、それほど深刻ではありませんが、内航海運は高齢化を含め問題山積みです。加えて港湾やそれに派生する鉄道やトラック、倉庫といった物流では先進国を中心に人手不足が顕著です。今以上にDXや自動化等の技術的な進歩がないと解消は難しいでしょう。

 ─ 海運業では脱炭素が喫緊の課題です。どう進めますか。

 長澤 当社は「NYKグループESGストーリー」という極めて野心的な目標を打ち出しています。50年までのネット・ゼロエミッションの達成に向け、30年までに21年比総量で45%減を目指しています。そのためには船を動かす燃料を、温室効果ガスを出さない燃料に切り替えていかなければなりません。

 今はアンモニアやグリーンメタノール(再生可能エネルギーを使って水を電気分解して得られた水素と火力発電所などから排出されるCO2から作られるメタノール)が主で、我々はアンモニアを使っていこうと。ただ、まだエンジンさえもできあがっていませんでした。

 しかしここにきて、ようやく日本のエンジンメーカーさんと協力して開発を進め、24年にはタグボートにアンモニアを燃料とするエンジンを搭載し、26年には中型の4万立方㍍ぐらいのアンモニアを燃料として焚ける船を建造する予定です。

 ─ 日本の造船業にも波及しそうな話ですね。

 長澤 残念ながら、ここ十数年で海事クラスターを巡っては、中国と韓国に相当後れをとりました。しかし、こうした環境に適応した新しい技術開発が進むことで、日本の海事クラスターが大きく復活する可能性を秘めているのではないかと。

 日本の経済安全保障上、日本で船が造られなくなったら大変なことになってしまいます。これは1つの大きな挑戦ではありますが、大きなチャンスが来たとも思っています。

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