2023-12-14

【政界】保守層つなぎ留めへ政策てこ入れ 2024年6月がターニングポイントに

イラスト・山田紳



還元と国債

 岸田は保守層に限らず、このところ政権内を統制できなくなってきたように映る。もともと前首相・菅義偉のような中央集権型の政治家ではなく。ある程度、鷹揚に官僚や与党に判断を委ねるスタイルではあった。それでも、所得減税を巡る一連の迷走は、政府・与党の一致結束からはほど遠い。

 岸田は所得減税について「過去の税収増を国民に還元する」と訴えてきた。ところが11月8日の衆院財務金融委員会で、財務相・鈴木俊一は、岸田と全く異なる見解を示した。

「過去2年の税収増は、政策的経費や国債償還などに使った。減税をするのなら国債を発行しなければならない」

 つまり還元ではなく、新たな借金による減税ということだ。財政を預かる財務省としては当たり前の言い分には違いないが、岸田もこれを否定できず、一国の首相として言葉の軽さが改めて浮き彫りになった。これでは「迷走政権」の印象を拭えるはずがない。

 人事の面でも、9月の内閣改造がわずか2カ月で「失敗」の烙印を押されつつある。昨年岸田を苦しめた「辞任ドミノ」の再来である。

 10月25日、自民党参院議員で文部科学政務官の山田太郎が、女性との不適切な関係を週刊文春にすっぱ抜かれて辞表を提出した。性行為の対価に現金を支払ったとの報道は「事実無根だ」と否定したが、改造後初めての政務三役の辞任だった。

 岸田は改造の際、外相・上川陽子ら女性閣僚の登用をアピールしていたが、新たな副大臣・政務官が「女性ゼロ」の異様な顔ぶれとなり、批判を浴びた経緯がある。山田の後任には参院議員の本田顕子が就いたが、女性軽視のイメージは回復しなかった。

 組閣や改造において、時の首相が閣僚の人選に力を入れるのに対し、副大臣・政務官は自民の各派閥の力関係と当選回数に応じた「順送り人事」の色彩が濃い。閣僚より注目度が低く、スキャンダルがないかを調べる身体検査も甘いのだ。


改造の後遺症

 そして辞任劇は続いた。東京都江東区長選のインターネット広告を巡る公職選挙法違反事件に関与したとして、地元選出の衆院議員で副法相の柿沢未途が「私が広告利用を勧めた」と認め、10月末に辞任した。与野党は衆院予算委員会で柿沢に答弁を求めたが、柿沢は国会に来ないまま辞表を提出してしまった。

 さらに上司の法相・小泉龍司が「辞表を出すことを事前に知らなかった」と答弁し、無秩序さを露呈するおまけまでついた。東京地検特捜部が柿沢の捜査を進めている。

 さらに11月に入ると副財務相・神田憲次が、過去に4回の固定資産税滞納と資産の差し押さえを受けていたことが発覚し、事実上更迭された。またも「文春砲」だった。神田は2012年に大量当選したいわゆる安倍チルドレンで、同期の不祥事が多かった「魔の1期生」の生き残りでもある。

 昨年の辞任ドミノが閣僚4人だったのに比べ、この3人は格下の副大臣・政務官で、本来その「クビ」は閣僚より政権への打撃が少ないはずだ。ところが、山田が前述のように岸田内閣の「女性問題」のイメージを増幅させたことに加えて、柿沢は公選法、神田は徴税と、政務三役としての担当分野でそれぞれ不祥事を起こした。その結果、閣僚辞任並みの強い印象を世間に与えてしまっている。

 自民党内には「他にも不祥事を抱えて危ない政務三役がいる」と懸念の声が絶えない。女性活躍枠のこども政策担当相・加藤鮎子や、万博担当相・自見英子も週刊誌に狙われている。

 当初言われていた「黄金の三年間」は霧散し、むしろ岸田は「解散できずに退陣した菅政権の末期に似てきた」とささやかれ始めた。24年6月はターニングポイントの一つだろう。通常国会の会期末にあたる時期で、春闘の賃上げ実現や所得減税の実施が重なって支持率が上向けば、岸田が秋の総裁選前に衆院を解散する最後のチャンスが訪れるかもしれない。

 G7広島サミットの浮揚効果で昨年の支持率低迷を乗り切った成功体験から、岸田周辺にはまだどこか楽観的な空気も漂っている。「来年は来年の風が吹く」かどうかは誰にも分からない。(敬称略)

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